Lee Morgan - THE SIDEWINDER



#4 THE SIDEWINDER


翌日、広州アパートとよばれる古ぼけたアパートを目指して歩いていったが
どうもなかなか辿りつけづにやきもきした。
丁度昼飯時となったので、関帝廟脇の店で飲茶を食べる。
その後店の女将に尋ねると目的地はすぐ裏だ、ということが分かった。

古ぼけたアパート・・いやなんとも裏通り感溢れる色気の皆無な建物で
陽の当たらない細い道を進むと目の前に現れた。
どうも中国人が住んでいるアパートで、日本人のにおいがしない。
大きな荷物を二台に括りつけた自転車が停められていた。
お世辞にもきれいとはいえない階段を上がってゆくと上階から小集団が降りてくるのが
分かり、身を隠すように廊下の陰に隠れた。
すると、チェンタイの一行が下りてくるではないか。
「シュエラン、ここでいいから」
傍らにいた女性にそういうと一行は階段を下りていく。
通路の窓から見ると白いロールスロイスが車道に停められていて
チェンタイたちが乗り込むとソロソロと走り去っていった。
其れを見送っていたのか、女性は力なく階段を上方に登りはじめたので
跡をつける。
三階にあがり外に付いた廊下を歩くと、中華街の裏の町並みが見えてくる。
二階屋が多いためか雑多に建てられた建物の屋根が見える。




この女・・シュエラン・・が、死んだ娘の母親なのか。
歳は30手前ぐらいか。
色白、黒髪、面長・・あぁこの幸の薄そうな顔が。
タンタンと似ている。
いや似てはいない。
ただこの幸の薄そうな感じがな。
締めつけてくるじゃないか。

部屋のドアを閉めかかったところオレは追いつきシュエランに声をかけた。
「このたびは・・ご愁傷様です・・」
オレを見たシュエランは拒むようにドアを勢いよく閉めようとしたが
オレは履いていた安全靴を隙間に差し込んだ。
「怪しいモノじゃない」といったものの・・
「怪しいモノ」にしか見られないだろう・・
「帰ってください!来ないでください!」
「チェンタイにヤンビンという男を捜せと頼まれた、娘さんを殺した犯人だと・・」
「違う、ヤンビンはそんな人じゃない!」
「しかしチェンタイは・・ヤンビンを探せと・・恐らく報復するつもりだ・・」
するとシュエランは手を緩めた。
チェーンロックをしたまま、ドアを開けた。
「どういうことなの?」
「今言ったとおりです。チェンタイは娘さんを殺したヤツがヤンビンだ、と。
とにかくチェンタイはヤンビンの命を狙うことになるでしょう。」
「どうしてあなたに・・・あなたはいったい?」
「あぁ、オレは私立探偵の平 厳といいます。コテコテの日本人です。
チェンタイ氏に雇われました。
チェンタイ氏はあなたのことが心配でならないようですよ。
とにかく日本の警察の捜査が難航している間に、ヤンビンを探せと。」
「違う、ちがうわ!」
シュエランが再び大声を上げたとき、オレの背後で銃声がして
反射的にドアを閉め、身を屈める。
二発目の銃弾は、オレのすぐ横の床で跳ねあがった。
間違いなくオレを狙っている。三発目の銃声が響いたとき近くにあった非常階段に
向かって突っ走った。
狭い土地に無理矢理建てたためだろうか、ハリウッド映画に出てくる非常階段のように
黒く塗られ跳ね上がるタイプの無骨なデザインの非常階段を下りる。
ヤツはオレが登ってきた階段方向から撃ってきている。
がオレを追って下りてくる筈だ。
このアパートの入り口で鉢合わせだ。
オレは非常階段を駆け下り、入り口に差し掛かると思ったとおり鉢合わせした。
黒い革ジャンの・・なんとも捉えようのないさえない顔した男・・
だがコイツは銃を持っている。
オレに銃を向けた瞬間、ヤツに飛び掛り壁にぶち当たった。
するとヤツは大陸伝来のクンフーとやらのキックを浴びせてきた。
オレもバカじゃない。払い除けるぐらいのことは出来る。
「探す手間が省けたぜ、おまえ・・ヤンビンだろ!」
オレの言葉にヤツは怯んだ。
「畜生め!」
オレの足元に一発見舞うと狭い路地を走って逃げ出した。
オレは一目散にヤツを追う。
クネクネと曲がった狭い路地を、走る。




しかし大通りに出たところで人混みに紛れてヤツを見失ってしまった。
其れより悪いことに皆本と藤原に出くわしてしまった。
「おぃおぃ探偵さん、なにを血相変えて走ってんだぃ!」
皆本のヤツ、オレの腕を羽交い絞めにしやがる。
「なぁに、運動不足なんでね。ジョギングですよ、ジョギング。」
すると藤原のヤツがえらそうにオレの襟首を掴んで云った。
「この件から手を引けって皆本さんから云われてんだろがッ!」
おまえら「ゆとり世代」が凄んだところでこちとらぁビビリはしないんだよ。
すると怖い顔面神経痛の顔を近づけてきやがった。
よせよ、おまえとキスする趣味はない。
オレは突っぱねた。
「皆本さんよ。公務員の暴力沙汰だ。一般市民として許しがたい行為だ。
恐怖感を憶えた。然るべき手段をとるからな。この藤原さんに。
白昼堂々、世間様の往来で、警官が嫌いなヤツはここにはゴマンといる。
証拠も証言もすぐに取れるさ。」
藤原は呆気にとられた顔をしながら、今度は下手に出てきやがった。
其れを制するように皆本が割って入ってきた。
「まぁよう、こんなガキ、いつでも、いくらでも挿げ替えが出来るんだ。
それよりよう、平ょぅ。
もう一度だけ云うからな。本当にこの件から手を引けよ。悪いこたぁいわねぇ。」
オレは鼻で笑った。
「あんたは悪いことしか言わないんじゃなかったのかい?」
「冗談こいてんじゃないぞ、コイツぅ!」
オレは自分の命が狙われてすらいるこの件についてある種助け舟を求めるつもりで
皆本にカマをかけてみた。
「チェンタイの仕事断ったらこの街じゃ生きていけないことぐらい、デカでもわかるだろ?」
すると皆本のヤツは笑った。
「5年も前にくたばった中華街の妖怪爺いのことなんか知ったことかよ!」
チェンタイが5年前に死んでいる_オレも最初はそう思っていた。
だがオレの雇い主は・・じゃいったい誰なんだ?
「そんな酔狂云ってるようじゃたいしたことないな、探偵さんヨぉ」
皆本のふてぶてしい顔がさらにでかくなった。
「それじゃぁ皆本さん、ここでなにをしてんだい?
昼間からカタギの市民を追いかけて遊んでいる訳でもなかろう。
さっきの白いロールスロイスを追いかけてきたんだろうが!」
すると皆本は狭い路地に連れ込み壁に押し付けた。


「いいか、よく聴け。
こないだのムスメの死体だがな。
とにかくやばいんだよ。
ありゃぁ人間じゃなかった。
下手すりゃァ地球上の生物ですらないのかもしれない・・らしい。」

それを聞くとオレは、なにか“生物として“思い当たる節があり背中に悪寒が走った。
だが、大真面目な皆本の顔を見ていると笑いが込み上げて、おもわず噴いた。


「税金もらって喰ってるご身分で昼間からバカ噺はないでしょうが」


「なんとでも云え。だがな考えてもみろ。
あれだけ街が大騒ぎになった事件なのに捜査本部も置かれないだろ。
今鑑識作業を行なっているのは科学捜査研究所の連中だ。
公安すらも地団駄踏んでやがる。なぜかわかるだろ?
ガイシャが人間じゃなかったからだ。
だから殺人事件にはならねえんだよ。」

なるほど、人じゃないなら殺人事件じゃない。
ごもっとも。




「じゃ・・チェンタイとのつながりは・・?」
皆本が踵を返した。
「死んだデブが蘇って中華街を闊歩してやがる。
そりゃぁおまえさん方が詳しかろう。
だっておまえ、ヤツに雇われてんだろ?」
見事に引っ掛けやがった。
「ゾンビだの宇宙人だの、変なもんにつきあってると碌な目にあわねえぞ。
だから知ってること全部吐けや!」
「勘弁してくださいよ、皆本の旦那、いきなり容疑者扱いですかぃ?
そんな戯けたこといってないで善良な市民の為に働いてくださいよ!」
オレは大声でそう云い放ちその場を離れた。
「なんかやばい病気持ってるかもしれんからな、とにかくかかわるんじゃねぇぞ!」
皆本が捨て台詞を吐いた。







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