o20130630
 





拙作「ぱんでみっく」の裏側をインタビュー形式で聞き取りを行なった・・という体裁の文章で
あります。他の掌編との連携関係を模索しながら物語を作ってゆく・・というパズルのピースを
作ってゆく感じで、書き手といたしましてはとても楽しみながら書いています。
今回の文章の内容のほとんどは「ぱんでみっく」の焼き直しに過ぎませんが、その作業を行なう
ことで随分立体的になったな、と思ったりもしています。さてお読みいただく際には
パズルのピースをはめ込む感覚でお楽しみいただけたら幸甚です。
今回のサウンドトラックは実はあんまり得意ではない(orz)加古隆の哀切のワルツなど。
まぁアナクロい田舎話にはあってるかもしれんですな♪

尚、hpに格納時にサウンドトラックは解除いたします。
女々しすぎるので・・・。


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● REC


 そんな眼で見るなよ。
そんたら眼でおぃを見るなって云ってんだろうが!
そんなヘンテコな機械をおぃに向けるな!
おぃは。おぃは確かに。・・・確かにさ。
いやだからって、おぃは・・・まさか好き好んでよ、あんなことしたわけじゃねェ。
だからさ、頼むからさ、そんな眼でおぃを見るなって・・。

長い話だぞ。
やむにやまれずに・・。
あぁ、わかった・・順番に話すよぉ。

ありゃぁ、山の神さまの祟りだったかもしれん。
あの年の夏場によ、鴉がいっぱい死んじまってよ。
ばかでっかい猪までもが人の歩く山道でよ、苦しみもがいて死んじまってよ。
そんときにタロさが、こりゃぁ山ん神さまん祟りだって云ってた。
ほれで獣の死骸を焼いてさ・・そりゃぁきっと水が悪いんべ・・と思った。
そして井戸の水が腐りよってるんじゃないかって。
だから女子供も手伝ってよ川の水を毎日皆で運んでおったんだがよ。
ところがよ、こんどは鼠の死骸いっぱい流れてきてよ。
だから川があっても井戸があっても、水が無かったんだ。
おまけに梅雨も空梅雨で、田んぼにひびが入る始末。
だが悪い水入れたところでよ、悪いもんしか育ちゃぁしねえよ。

だから裏の森の祠で雨乞いの儀式をした。
お山の神さまに雨を降らしてくださいってな。
そうゆうとき司祭をするのはタロさだった。
あぁタロさってのはおぃの兄者で。
おぃと違って、昔っからぁ頭も良くてな。
でもそれだけじゃなくて、しっかりとした働き者だったぁ~。

雨乞いの儀式とか村の祭りとか必ずタロさが司祭をやった。
だってさこんなど田舎の神事なんかにどさまわりの神官もやってきやしねえしな。
人が死んだって坊主が来るわけじゃね。
だから事があると、タロさは神官にもお坊さんにもなった。
だから、だからさタロさが村のものからお供えを集めさせてさ。
いやたいしたものはないさ。茄子に胡瓜にせいぜい芋に南瓜、そんなとこだ。
御神酒だって、どぶろくでさ。だがな・・それが精いっぱいだった。
田畑は干上がっちまってるんだからさ。

雨乞いの儀式を皆でしてさ。井戸が使いものになるよに御祓いしてさ。
酒と塩と撒いて、お清めをしてさ。
それから三々五々村のものは家に帰っていくとさ。
タロさは、お供えものをさ、ひとりでごっそり持って帰っちまった。
神官やら坊さんが来るなら話は別だ、だが、村のものの皆で集めたお供えだったらよ
村のもの皆でよ分けりゃぁいいじゃないか。
皆、苦しんでるんだしさ。
ところがよ、タロさって男はそういうことをしないんだ。
でも誰も文句も言わねえ・・だからタロさも、そういうもんだって思い込んでてさ。
いやぁ・・だから・・おぃは。
こんな時だからさ・・お供えは皆で分けてあげようよって云ったのさ。

そしたら普段温厚で通ってるタロさが、目の色変えて怒ってきたさ。
余計なこというんじゃねぇ、っと・・こうさね。
そういう男なんだ。他の奴ぁ云わないがな。
兄弟のおぃだから云えるんだけどな。
タロさってのはそういう男だ。こどもの頃からな





  ほいで病が広がって・・あぁいっきに広がった。
まず最初に眩暈がしてよ、ひどく汗をかいて、熱が出るんだ。
なにかうなされて、幻覚ってのかな、ゆめうつつを見てるような顔になってよ。
喰っても飲んでも吐いちまう。
熱はおさまらずに、やがて顔や体が黒くなるんだ。
あんなに体格の良かったけぃちゃんも、一気にやつれてな・・。
皆、死んじまうんだ。
あの病に罹ったらよ・・・皆死んじまうんだ。

あんまりいっきにひろがってしまって、毎日毎日が葬儀と墓堀りの日々だった。
来る日も来る日も遺体を焼いて、墓を掘って埋めた。
タロさは「にわか坊主」が日に日に板について。
日に日にお布施が懐に入れば、素人の経読みも上手くはなるだろう。

ところが・・今度はタロさが病気に罹っちまった_。
長老格も皆死んじまっていたから、おぃとタロさが歳かさ的には長老格だった。
だからタロさが病に罹ったからには、おぃが村の行く末を決めねばならなくなった。
下村ぁ医者は病気に罹って死んじまった。この近所じゃ他に医者はいねぇ。
だからさ・・流行の病が来たらよ・・。
昔、婆様や爺様・・祖先代々云われてきたことを実行したまでよ。
昔の人は・・やっぱえらい目にあってきたからな。
それを言い伝えて残してきたんだな。

病人を小屋にまとめて回復するまでいっしょに過ごせ_と。

病が広がらないようにな。病に罹っていないものから遠ざけてな。
ちょうどさシゲんところの豚舎が・・豚が死んじまったからさ・・全部。
だから空いてたんだ。
シゲも仕方なかでしょと、了承してくれた。
村のもんの半数が病に罹っていたから。
雨露凌げる小屋と云えばシゲんところの豚舎しかなかった。
そこにムシロを敷いてな壁も板で覆ってさ。
病人を豚舎に集めてさ。

他のもんに病が移っちゃならねえから鼻と口を布きれで覆ってさ。
中の病人の喰いもんはおぃが運んだ。
とはいったものの・・自分らも食べるものが少なかったからさ。
たいした量ではなかった。
栄養つけにゃならんのにさ。

豚舎の中では病気は収まるどころか更に悪化した。
中の皆が黒い顔になってさ。
昔からここいらに伝わる大黒猿の伝説みたいだった。
豚舎の中では、病気もそうだが、腹ぁ空かしてさ。
おぃはそんな有様を毎日三度三度看ていて・・泣けてきた。
だって病人が亡くなっても豚舎の中から出すこともできないんだぜ。
皆ひもじい思いしながらよ。死体の横で暮らしてたんだ、皆。
あの暑い夏の日によ。

そんななかでよ。
タロさは、豚舎の中の連中と毎朝毎晩、山の神さまにお祈りを始めた。
そりゃあんな絶望的な有様の中でよ、
生きているものにせめてもの心のよりどころを
持たせることは大切だと思うよ、
だからタロさ、お祈りを始めたんだ・・そう思ってた。

掛けまくもかしこき 山の神々よ_。
我らに与え給うこの災いを沈め給え祓え給えと
かしこみかしこみ乞願奉らくと申す_。
ぎゃーてー ぎゃーてー はーらーぎゃーてー
はらそーぎゃーてー ぼーじーそわかー

祝詞みたいな般若心経みたいなものを皆で何度も繰り返してた。

ところがよ、タロさは豚舎の中の連中の食料の中からお供え物を徴収して
結局は自分で全部喰っちまった。
豚舎の外のおぃたちだってよ日にいちどしか食えなかったのによ。
タロさは病人からお供えを集めて・・結局村でいちばん食い物を喰っていた。

それにはおぃも意見せねばと思ったがよ。
もうタロさは・・狂っていた。
食事もたらふく食って精がつけば、男女関係なく年寄りも子供も見境なく
山の神さまの思し召しよぉっ!
ってのべつ幕無しにまぐわりよって。
その光景を見たおぃは、山の神さまも仏もありゃぁしねぇ、と思ぅた。

豚舎の中の連中は皆頭に病が回っちまって・・誰彼関係なく・・。
見境なくまぐわい続けてた。
オヤジが娘を犯し、爺が孫を犯し、そりゃぁケダモノ、鬼畜の所業よぅ。

もう仕舞いにしよぅ。

タロさに最後にそういったが・・
「ここから出せ、ここから出せ!」と叫ぶ始末。

ここから出しても、タロさ、お前は・・。
この人たちをここから出さないだろ?!

おぃは、泣きながらそう云った。
そしたらタロさのヤツ!
笑いやがった。

「それが山の神さまの思し召しじゃ!」と。



おぃはその場を泣いて去った。
そして祖先からの言い伝え通りに従って・・。
あぁ豚舎に火を点けたのはおぃよ。
だがな、あぁするより仕方なかった。

あぁ、あぁするより仕方がなかったんだ。

涙も出やしなかった。
だが狂乱・・まさしくあの狂乱の地獄を消し去るにはそうするしかなかった_。
豚舎の中での失火が元で焼けた_。
おぃはそう説明した。
だが村のもんの中にはおぃが火を点けて殺した!と罵るものもいたが
それにいちいち答える気力もなかった。
だから或るものはおぃの心情を察してくれたし、或るものはおぃを人殺しと罵った。

だがそうこうしてる場合じゃなかった。
本当に食い物が無くなってしまったからな。
豚舎の火事以後病になるものは居なかったが、村人の半分が焼け死んじまって。
そしてその多くが働き手だったこともあって。すぐに食い物が無くなっちまった。
そこで上村のもんに泣く泣く食い物の無心に行ったんだ。

だが上村に通じる道には全て高い土壁が作ってあって・・。
おぃは壁の外から大声あげてみても・・。
上村のもんはおぃたちに石を投げつけてきやがった・・。
あぁおぃは頭に石をぶつけられてな。大怪我をした。
それで床に伏せってたらよ・・あの女が。
おぃが豚舎に火を放ったって言い続けてたあの女が、来てよ。
あぁ悟作の嫁さぁ・・奥村から嫁に来たお吉・・よ。
あんまりにも強く心を痛めて・・いやそりゃぁそうだ。勿論そう思うさ。
家族が皆死んじまったんだからさ。
あぁ・・娘がいたっけな・・ちぇちゃんがなぁ・・
だから余計におぃを恨んでいた・・そのことを詰問するために来たのだろう。
しかたあるまい、あの豚舎の中のことを伝えねばなるまい。
辛いがしかたあるまいよ。

そう思って体を起こした瞬間さ・・。
あの女に背中から刺されたんだ。
痛みのあまり布団の上に倒れこんで・・
奥村のおなごは昔から気性が荒いからなぁ
するとおぃの体の上にまたがって。
おぃの胸をなんどもなんども包丁で突き刺したんだ、
声も出せずに・・。
なんどもなんども刃を突き刺した。

そんあと、おぃが動けなくなったのを確認すると、お吉ゃ火を点けた。

おぃの家が燃えていくのを・・おぃは黙ってみていた。
やっぱり奥村のおんなぁ・・心に鬼を持ってる・・そんな噂話もあったが
最後の最後になって本当だ、と思ったな。

奥村の話?
そんなことぁ、おぃは詳しくは知らん。
だがよ・・昔っからぁ・・
あぁ・・眠くなっちまった。
悟作の奴が・・あの女に惚れちまったばっかりにな・・。
あん娘っこがょ大きくなる前に・・大人になる前にょ
どこかで・・
落としどころをよ作らねば・・


・・な。





録音日時1964年7月20日 16:48~17:12
テープ#17
「ジロさ」
 


 





 いただいたご感想等
2013-06-30 22:44:08
まんぼう
意欲的な試みですねえ。
読んでいて細かい処を忘れていたりしてw
楽しみにしています(^^)

2013-07-01 22:47:22
平岩隆
まんぼうさま、ありがとうございます。
ぼんやりと全体像は出来てきてはいるのですが、
まだまだいい加減なプロットでしてw
今回は前回の焼き直しに違った視点から見ると違った様子が見えてくる・・
みたいな仕掛けでございます。

 
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