Henry Cowell - The Banshee

最初の一撃は右腕に入った。
付け焼刃ながら鋭く砥ぎきった刃は皮膚を貫き真紅の鮮血が飛び散った。
その血飛沫の一滴一滴が飛び散る様は_。
その一瞬、一瞬が、まるで映画のスローモーションのように見えた。
怯んだ相手の胸に一撃_。
肋骨が折れたようなまるで骨が軋んだような音がした。
一撃、一撃。
噴き出す血が辺りを真っ赤に染めてゆく。
そして、顔面に一撃・・。
両方の眼球めがけて刃が振り下ろされる。
眼底にまで達した刃を力任せに引き抜く。
力を込めて引き抜くと再び血が溢れ返った。
苦痛にゆがむ貌をめがけて更に二度、三度と刃が振り下ろされる。
鼻骨を砕き、涙線から液体が流れ出すが、すぐに血に染まってゆく。
抵抗しようと邪魔をする左腕を抑えて、力任せに刃を叩きつける。
皮膚が破れ、筋肉が裂け、血管が破れて血が噴き出し、やがて骨を叩き折る。
何度も何度も刃を叩きつける。
脈打つたびにどくどくと破れた血管から湧きだす血が広がってゆく。
どくどく、どくどく
どくどく、どくどく
赤黒い染みが広がってゆく。
どくどく、どくどく
どくどく、どくどく
繰り返される命乞いと恨み節を封じるため、口に叩き込む。
キッと閉まった歯を鉈で叩き折る。二度、三度。
そして頬を切り裂き刃は顎を外した。
もう刃はこぼれボロボロだったが、お構いなしに何度となく顔面を叩き潰す。

「もういい・・。」
眼球は外にこぼれた。
「もういい・・。」
両方の耳を削ぎ落とした。
「もう充分だ・・。」
口に歯は残っていないほど叩き潰した。
「もう充分だよ・・。」




血まみれの鉈を持った僕の腕を、じいちゃんは止めた。
龍田久子は土間で痙攣していた。
「こいつはもう死ぬ。」
じいちゃんは、腰刀を拾うと、僕を脇に寄せ、龍田久子の首に刃を当てた。

「ひろごこひぃ~」
両腕を折られ顔面を徹底的に潰された血まみれの龍田久子は血泡を吹きながら
わめき続けた。
「貴様の様な心に鬼を持つ女は死んでしまうが世の為だ。」
じいちゃんは一気に首を叩き折ろうと腰刀を振り上げたとき龍田久子は笑った。
「馬鹿め、鬼は人の心の中に棲むと本当に思っているのか・・・!」
まともに発音できない状態にまで顔を潰されていて・・しかしその声は澄んで聞こえた。
その不愉快な嘲ったような笑い声を止めるため、首を斬りおとすべく刃をなんどか打ち降ろした。

ゴトン

龍田久子の頭が土間に転がった。





そしてひとまずの熱狂が過ぎていった。
あぁ・・これで僕は人殺しだ。
ひかりごうの運転手にはなれなくなった。
刑務所に何年も収監されるのだろう。
いや死刑になるかもしれない。

じいちゃんが僕の肩をたたいた。
「なにがあってもわしはお前を守るからな。」
じいちゃんは久しぶりの笑顔を見せてくれた。

そのとき、龍田久子の首を失った胴体が起き上ったのだ。

僕とじいちゃんはその恐ろしさの余り腰を抜かして土間に座り込んでしまった。
そして胴体はよろよろと歩きだし、一度転がっていた頭に躓き倒れたが、再び起き上ると
よろよろと外に出て行った。
「どこにいくの・・・」
恐る恐る外を覗き込むと、よろよろと首の無い龍田久子の胴体が歩いていくのが見えた、
「・・奥村の鍾乳洞に戻るんだろ、きっと。」
「怖いよ、じいちゃん。」
僕を抱いてくれたじいちゃんも震えていた。







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