本牧・事務所



Tangerine Dream - Sorcerer Soundtrack- Betrayal - 1977



それでいったい・・ナニをすればいいんだ?
狭い街だが探し物をするにはこの街は広すぎる。
しかも「武装していることが予想される」

相手にこちとらぁ・・素手でどうやって渡り合えというのか。

「馬鹿馬鹿しい_。」
オレはその言葉を残して拘置所を後にした。

「世界の要人たちが集まる会議をテロリストに
狙われていることがわかっていながら・・。
自分たちは・・我々は・・このままじゃなにもできないんですよ。
唯一、手が出せそうな先輩・・あなたがそんな態度では・・
先輩、それじゃこの国がどうなっても構わないといわれますか?
なにも出来ない無能な国と云われてもいいんですか!?
もしも他国の要人が倒れることがあれば、これ幸いと
この国に攻め込んでくる国ばかりだ・・。
そんなことをさせていいんですか・・先輩!」

坂東太郎刑事。随分と熱っぽい男だ。だが、このオレに対して。
「態度」と云う言葉を使った点でオレの最大級の怒りを買ったんだよ。
その言葉を使った奴とは二度と話はしない。むかつくんだよ。
それに貴様の話しの論点の摩り替えが我慢ならん。
要するにお前らの公務員の職務怠慢だろうが。
この国がどうなろうと、このオレの知ったことかい。

跡を追いかけられるのも嫌だったので、拘置所から川沿いに歩いて事務所に戻った。
戻るの必要もなかったのだが、財布を置き忘れてしまったので戻らないわけにもいかなかった。
川ッぷちの本牧の事務所の一階のフィギュアSHOPの店の前にはどう見ても胡散臭さが
臭い立つような、いやハッキリ言うならばイカ臭い、如何にも女にもてなさそうな男たちが
集っていた。オレは階段を登っていくと、事務所のドアが開いていた。
電気が点いていない。オレの脳裏には野毛のボンクラ共の姿が浮かんだ。
野郎ども、オレを逆恨みしてやがる_。
「野毛のボンクラ共、あなたを目の敵にしてるらしいじゃないですか。」
坂東の言葉を思い出す。ちゃんと働けよ、公務員!
もしも奴らが中にいるとすれば、可也やばい。
中から物音がした。誰かが中にいる。
表にはオタク共が屯している。
ここでこないだのようなヤクチューが暴れでもしたら怪我人が出るのは必至だ。
警察に電話でもすれば・・。
また坂東太郎の顔を見なければならないのではないか・・勘弁してくれ。
しかも拙いことに財布が無ければ飯も食えない。

ここは一撃必殺のパンチでノックアウトするしかない。



オレはそう覚悟を決めて、暗い事務所の中に入った。
すると部屋の中はいつもは閉めたことのないカーテンが
閉められており真っ暗だった。
そして静寂_。
息を殺して辺りを伺うが、相手もどうやら同じことをしているようだ。
緊張の糸がぴんと張りつめて。物音一つしない。
聞こえるのは、階下のフィギュアショップで流しているのであろう
<アイアン・ナース>の歌が薄ら小さく聞こえるぐらいだ。
それよりもオレ自身の心臓の鼓動が高鳴っているほどだ。
オレは暗闇の中の相手を必死に探した。
身を屈め床を這うようにソファーの陰に隠れた。
壁づたいに手を伸ばしカウンターの上のバーボンのビンを手に取ろうとした。
このビンで一発見舞ってやる。
指先がビンに触れた。
少し手を伸ばせば掴める。

だが、ビンとは違う触感が指先から伝わった。
それは人間の肌・・しかも指のようだった。
一瞬のたじろぎが、不覚の元だった。
ビンは相手に奪われ、次の瞬間オレは脳天をバーボンのビンで殴られた。
頭骸骨が陥没し、脳震盪を引き起こし、更に延髄にまで強い衝撃が伝わった。
暗闇の中でも・・目が回っているのがわかった。
頭を庇いながら床に倒れこんだ。
逃げ出さなければ、二発目が来るぞ・・そう思うが体が思うように動かない。
しかし、二発目が来ない。
相手も可也ビビっているようだ。
頭を持ち上げると、照明が点いた。
その眩しさに目を瞑る。
オレは呻き声をあげながら、ふらふらと立ち上がった。
そしてバーボンのビンを持って、震えて立っている男の姿を見た。

身長175・・いや180cmに届かない・・ってところか_。
体重・・おいおいメタボ入ってんじゃねえのかぃ・・90から100ってところか
昔、アメフト?ラグビーでもやってたか・・。
腿が太すぎてズボンがワンサイズデカいの履いてるだろ。
なんだ・・そのダサいグリーンのチェックのシャツは・・!
その革ジャンは!もう少し手入れしろよ・・
顔面の半分にデカい絆創膏を貼ってやがる。
どこで怪我したんだ、おい・・


次の瞬間、オレは後頭部に受けた余りに強い衝撃の為に幻覚を見ていたようだ。
いや見たものが信じられなかった。
いややはり、脳震盪が酷過ぎて在りもしないものを見てしまったのだ。
オレは膝の力が抜けて、ソファーの後ろに気絶して倒れた。

悪夢は目が覚めれば終わる。




余りの脳震盪の為、いや割れたビンからこぼれたバーボンが
頭の傷に入って酔っぱらったのだろう。
しかしオレもヤキが回ったものだ。
殴られた衝撃で、殴った相手が・・まるで自分自身に見えたのだから。

悪夢は目が覚めれば終わる。

最初に再起動したのは視覚だった。
白く眩い暖かなやさしい日差しに包まれた。
次に頭痛を感じ・・いや・・さほど酷くない。
次に感じたのは冷たいアイスノンの感覚だった。
オレはソファーの上で起き上がった。

悪夢は目が覚めれば終わる。

あぁ酷い目に遭ったもんだ。
オレはゆっくりと体を起こすと座りなおした。
すると真正面にオレのデスクが見える。
あぁ、いつもの光景だ。
だが、すこし違和感がある。
オレのデスクに座っている奴がいる。
そいつは煙草を燻らせながらオレの方を見ている。


オレそっくりの男が。


悪夢は目が覚めれば終わる。ハズだろ。オレはまだ夢を見ている。
オレは頭を振った。
するとオレそっくりの男は云った。
「ようやく起きたか_。てめえの御蔭でえらい目に遭ったぜ。」

オレは体を起こして指さすと、男は同じようにオレを指さした。
そして同じタイミングでこう云った。

「てめえ、誰だ?」

このオレと姿かたち、声まで同じ男が_。

「てめえ野毛のボンクラ共になにかしやがっただろう、
いきなり殴られて酷い目に遭ったんだぞ。
てめえのせいだ!てめえがこの俺にあんまり似てるから・・」


唯一違うのはヤツは顔の半分に絆創膏を貼っている。
オレは頭痛でボンヤリしている。
そこだけだった。

オレは頭を捻った。
「てめえこそ誰だ。オレはこの事務所のオーナーだ。」
すると男はこういった。

「俺は、平巌、この私立探偵事務所の・・」

オレは脱力した。
そして頭を抱えた。

「オレもそうだ、いやオレこそが平巌だ。」

くどくどと詰まらない言い合いをしても気が滅入る。
それは相手方にしてもそのようだったらしい。
そしてオレはひとつの結論に達した。
「よし・・このオレが説明してやる。いいか。」
オレは野毛のボンクラたちとの一件を話して聞かせた。
そしてその後、警察病院に入院した。
そのときにオレの・・つまり平巌の細胞組織をスキャンして
3DプリンターにiPS細胞とSTAP細胞と
それに宇宙で採取したアミノ酸を
ちょちょいと混ぜて出来上がったのが・・お前だ。
ということを話した。
狐につままれたような変な顔をしたが。
どうも自分の顔だという部分で、情けなくなる一方だった。

「おそらくは要人警護の為にオレをコピーしたんだろうな。」
「警察なんてのよ、面倒くさい事に関わるからだ、身から出た錆だ。」
「その錆がおまえだ。」

「で、俺とおまえのどちらが本物の平巌なんだぃ?」

それは・・オレだろ。

「それは・・俺だろ」

オレと「俺」は激しい感情を持ったが、これ以上の「面倒臭いのは御免だ」
という点では一致したようだった。
目の前の「俺」は立ち上がると薄汚れた革ジャンを着こむと、ドアの方に向かった。

「いずれにしろ生き残ったほうがホンモノってことだな。」

「俺」はオレにそう言い放つと事務所から出て行った。
オレは「俺」・・つまり自分のコピーからも命を狙われている・・ということか。
そう思うと思わず吐き気がした。
オレは坂東太郎に電話した。
「よくもオレのコピーを作りやがったな」
そう悪態をつくつもりだったが、ヤツは出払っていた。




夕方になって坂東太郎から呼び出しがあり大桟橋に出かけた。
がらんとした大桟橋の端で、オレのコピー品を勝手に作ったことを詰った。
そしてオレは「俺」からも命を狙われている、ということを坂東太郎に伝えた。
すると坂東太郎は、自分もそのことについては知らなかったと言い張った。

「以前、お話ししませんでしたっけ・・
云われてみれば私自身もコピー品を作られたかもしれないんです。」
他人の空似のような男に遭ったという話しか_。

「いずれにしろオレの模造品は今もこの街をうろついている。今すぐなんとかしろよ。」

すると坂東太郎はゆっくりと言葉を選んで話した。
「実は私も警察庁の上の方から署長と一緒に今日になって言われましてね。
要人警護のご協力を得られた場合、事後にはなりますが
その模造品を処分いたします、と。
とにかく猫の手も借りたい、というのが今の状況でして。
会議が終わるまでご協力を要請したいと。」

随分と簡単に作られちまったもんだ。
模造品の処分がどういうものであるかは知る由もないが、こうなれば仕方がなかろう。
オレを狙う「俺」と、野毛のボンクラ集団から身を守るためだ。

「このことを内密にしていただくことと今回のご協力に対しての報酬は
かなり高額になると思ってください。
ただしその間はみなし公務員としての身分となりますので・・」

坂東太郎の説明は続いていたがオレは聞く耳を持たなかった。







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