みなとみらい 駐車場



Barry De Vorzon - The Warriors Theme 1979

オレは待ち構える警官たちに体当たりする格好で桟橋に転がった。
ひとまず上陸には成功した。
警官たちと押し問答する時間はない。

「警護の坂東刑事に連絡しろ、テロリストのターゲットは韓国大統領だ!」

タイミングも良かったようだった。
警官たちはオレと共に地下駐車場へと進んだ。
坂東太郎が数人の警護スタッフと共に現れた。
「先輩・・」
口を開こうとした坂東を制して

「伊達は陽動作戦のコマだ・・すでに奴らは死んだ。
北朝鮮の工作員キム・ウィチュンが既に潜入しているらしい。
ヤツのターゲットは韓国大統領だ・・」

坂東達は息を飲んだ。
まさに韓国大統領の乗る黒いバンが地下二階の駐車場に到着したのだ。

「韓国大統領は韓国の警護スタッフと中国人民解放軍の
シェ・コウク少佐の警護部隊が護衛するんですが・・・」

坂東はオレに目配せした。

「オレらも付かざるを得まいよ・・」

オレと坂東そして数人の県警警備部が韓国・中国の警護スタッフに加わった。
韓国大統領を中心に韓国のスタッフ、人民解放軍の兵士、
その間に我々が入ることになった。
人民解放軍の兵士とはいえ、スーツ姿の男たちだ。
そのリーダーであるシェ・コウク少佐は190㎝は有ろうかという
長身の男で、右の耳たぶにイヤリングをしていた。なんだオカマ野郎か。

その二重三重のスタッフの警護する中、観ているものを不機嫌にするような
面構えの女大統領が降りてきた。
国際会議の前に18階で在日韓国人の団体の会頭と会談する予定らしい。
その部屋までエレベーターで上がる。
エレベーターまで30mの通路が伸びている。
緊張感の漂う中、足早に屈強な男たちに囲まれて韓国大統領が進む。
不審物も置かれていない、コンクリートの無機質な壁、逃げる通路もない一本道。
突然足元からシューと音を立てて煙幕がたかれた。
催涙ガスだ。
警護スタッフたちは目を押さえて跪いてゆく。
韓国大統領は悲鳴を上げたが、余計にガスを吸い込んでしまった
のかやはりうずくまってしまった。
オレの涙腺も緩み顔をそむけるが、更に催涙ガスのボンベが
置かれたのかシューと音がしてガスは濃くなった。




こうなると聴覚が頼りだ。
オレのすぐ横で銃声がした。
自分の頭が吹き飛ばされるような衝撃が走った。
煙の中足に蹴躓いた・・坂東の死体があった。
防弾チョッキが用を為さない眉間に一発弾丸が撃ち込まれていた。
耳鳴りがする。
敵は何処にいるのか_。
もう聴覚も利かない_。
涙の向こうに小型の拳銃を握る手が見えた。
その銃口の先には不機嫌面の女大統領がいる。
皮手袋の指がトリガーを引くのが見える。
オレは無意識のうちに女大統領の前に飛び出した。

銃声!

使い物にならないキーンと耳鳴りのする耳に更につんざくような衝撃音がした。
そしてオレは胸に痛みを覚えた。
重量感を感じる。
胸の痛みは銃弾によるものではなかった。
オレの前に飛び込んで銃弾を喰らったのは・・「俺」だった_。

右頬に馬鹿でかい絆創膏を貼った「俺」は
力無く似合わない笑顔を浮かべた。
被弾した胸部を両手で押さえていたが指の間から、
掌の縁から止めどなくどす黒い血が流れている。
息も絶え絶えの「俺」は声を出さなかったが、
オレの顔を凝視して唇を動かした。
他の誰にもわかるまい。
「俺」はオレに言葉を伝えた。

オレは振り向き、背を向けて走ってゆく人民解放軍の少佐シェ・コウクに銃を向けた。
左手で溢れ落ちる涙を拭い濛々たる煙の中で。
マニュアルのセイフティーを外し右腕を伸ばし
照準を合わせ、右手の人差し指でトリガーを引く。
スライドがバックし19mmの薬莢が飛び出すと
銃口からは9mmの弾が飛び出した。
軽い銃身から比較的強い衝撃波が腕から肩に伝わる。
続く二発目の衝撃波はそれほど強くは感じず、弾道は
正確にターゲットの頭を打ち抜いた。




暫くの間、「俺」は唇をゆっくりと動かし続けていたが、やがて動かなくなった。
オレは、意識を失い”生”の緊張感の糸の途切れた「俺」の身体を抱き上げた。
感情の整理がつかないまま、オレはなにか言葉を叫んでいた。
だが、オレを取り囲んだ半島人や大陸人の警官たちにオレの言葉は通じなかっただろう。
奴らの言葉は解った・・いや解る気がした。銃口をこちらに向けているのだから。
どうせ・・銃を下ろせ・・だの、手をあげろ・・だのそんなところだろ。

オレは9mm銃の模造品を投げ捨てた。

その瞬間、無数の銃口を突き付けられた。
次の瞬間には、力づくで床に伏せさせられた。

更にその次の瞬間には、警護スタッフの銃床で延髄を思いきり殴られ、意識を失った。










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