Gato Barbieri - Theme From Firepower 1979


　最初に感覚が戻ったのは、恐らくは皮膚だった。
真冬にもかかわらず冷房でも掛けてるんじゃないのか、と思うほど寒かった。
だが体中のあらゆるところが熱をもっていたせいか、寧ろ心地よかった。
少しするとその寒さが堪らなくなり
ゆっくりと上半身を起こすと激しい頭痛に襲われた。
頭を両手で押さえながら、ゆっくりと瞼を開けると
柔らかな光が脳内スクリーンに投影された。
するとそれまで鳴っていた耳鳴りが収まり、頭痛もスッと引いた。
なにか胎内から生まれ出たばかりのような気分になり、大きく伸びをした。
見覚えのある白い壁、天井・・再びオレは警察病院の回復室で目覚めた。
ボタンを押すとナースがやってきて、体温や血圧を測った。
そして二日ほど病室で過ごして開放された。

　事務所に戻ると無性に寂しい気分になった。
バーボンのビンを取りグラスに注ぐ。
日の高いうちに煽る酒は回りが早い。
一階のフィギュア屋は幼児ポルノに該当する3Dフィギュアを製造した件で
店主のデブは逮捕され廃業に追い込まれていた。
結局おまえらの想像力なんてそんなものさ。

　ここ数日のことを思い返してみる。
オレを庇って胸に銃弾を受けた「俺」がこのオレだけに言った言葉＿。

”テロリストはシェ・コウクに化けている＿。”

　この言葉をまともに信じることができたのはオレだけだった。
そしてオレはヤツを撃った。

　当然のことながら、オレはテロリストとして尋問を受けるはずだった。
だがオレが撃ったシェ・コウクのバイオ・マスクが剥げ落ち、
声を変えるための声帯変換マイクが転げ落ち
北朝鮮のテロリスト、キム・ウィチュンの化けの皮は意外にも簡単に剥げた。
韓国の政治余命の短そうな女大統領が日帝の送り込んだアサシンと喚いたそうだが
見るのも不愉快な婆の顔など思い出したくもない。
結果としてそんな奴の生命を救ってしまったことで、
オレは無事にこうして自由の身となった。
「韓国大統領を身を挺して護った日本の優秀な警護スタッフ」は
非業の死を遂げた。のだという。
日韓関係の好転の兆しとなるか＿だと？
そんな見出しを左巻きの売国新聞が一面に載せたらしい。

そんなこと・・オレの知ったことじゃない。

　ベトナムでの韓国軍の悪行を謝罪し、竹島のキムチ臭さを除染してから返せ。
話しはそれからだ。

　伊達宗人の4人のコピーは最終的な結論として、史上最強のスナイパー
としての互いの存在に疑問を持ち、殺人マシーンとなることをヨシとしなかった。
それはオリジナルである伊達宗人の心の奥にある一種の・・
正義に由来するものだったのだろう。
結論として4人は互いに撃ちあい、共倒れした。
オリンピックメダリストとして。平和主義者として。
気高い決定をし、実践をした。

　クローン人間の出てくるSF映画じゃ奴らはアイデンティティーで苦労するが、
実際のところコピー品は過去の記憶すらコピーされている・・
個体数の多いだけ悩み悶え辛い現実にぶち当たった。
そのことはオリジナルのメダリストは知らないだろう。
知らせる必要もない。
だが、もし知ってしまったなら、やはり想像もできない程に
辛い思いをすることになるだろう。

　そして最強のスナイパーの餌食として、公務員を殺されるのは
敵わないと考え、極秘裏に作り出されたのが元・公務員の複製品
・・銃が扱えて、反射的に銃弾に対しても飛び込める
・・いちいち最初から教えなくても手っ取り早く使える
元・警官。死んだところで問題の無い男。
そして選ばれたのがこのオレ。
畜生め、どこまでも腹黒い奴らだ。思い返すに腹立たしい。
人数分の報酬もらわなければ割に合わない。

　そういえば・・ 警察病院を出るときに坂東太郎に遭った＿。
死んだはずの・・坂東太郎に、だ。
オレは「ヨっ！」と肩を叩いたが。
ヤツはオレの顔を見てもわからなかったようだ。
どちらがコピー品だったか・・もうどうでもいい。

　いや、そんなことより＿。
「俺」がオレの腕の中で残した最後の言葉＿。
コピー品である「俺」が。
ヤツはオレのコピー品だ。
たかがコピー品だ。それ以上でもそれ以下でもない。
デジタルに細密にコピーされたとしても。
畜生め、コピー品のくせに、赤黒い血を流しやがって。
おまえはコピーのくせに、オリジナルのオレを守ろうなんて
偉そうなことをしくさりやがって。
父もいない、母もいない、天涯孤独のオレの腕の中で。
唯一の・・唯一の・・。
オレは「俺」自信を腕の中で看取った。
なんともしがたい喪失感に苛まされている。

　その「俺」がオレの腕の中で残した最後の言葉＿。
声にならない、唇を震わせてつぶやいた言葉＿。
その言葉にオレは苛まれている。
たいしたジョークだぜ。オレのセンスも満更じゃない。
そしてその言葉にオレは慄いている。









”俺がオリジナルだ”