2010112
「座頭市」改め「按摩さん」

 

  座頭市といえばやっぱり勝新太郎だよな。

 ビートたけしのヤツはやっぱり違うんだよなぁ。

 綾瀬はるか?おいおい・・いいおんなだけどさ。

 仕込み杖を持った盲目の居合の達人、座頭の市。

 どす黒いコミカルさと云う微妙な線やねぇ。

 平岩お薦めはシリーズ中の異色作  「座頭市と用心棒」

 大映を離れ、勝プロダクションと三船プロダクションの合作。

 そう勝新太郎と三船敏郎が対決する!

 岡本喜八監督作品!音楽伊福部昭!

 意外にコミカルに進むのだが、最後は伊福部のお経のような音楽が

 包み込むドロドロな世界。

 

  だが、今回は・・ビートたけし版かな?

 珍しくタイトル通り?座頭が出ます。

 ホントは山崎勉の「念仏の鉄」がモデルなんだけどねw

 

 「短編家」さんコミュのお題は「ルービック・キューブ」ということで

 え?お題に・・あってるよね?





 
 

 あるインド人のお医者さんは、クリエイティヴな職業の人たちに云った。

「あなたが本当にクリエイティヴな仕事をしたいなら

栄養十分でバランスが完璧な・・豊かな果実を召し上がることです。

発想は十分な栄養が充たされてはじめて可能になるのです。」と。

なるほど、そのとおりだ。と、思う。

 

 ノーベル賞を受賞した二人の日本人の・・後期高齢者たちは

自らの研究の完成のために潤沢な研究費が使えるアメリカに渡った。

日本にいたら研究費が出ないからだ。

 

 しかもこの国は巧くいけば・・。

いや、うまくいったら最後・・。

次の瞬間には、コストダウンを求められる。

 

 結果が読めない世界への投資は

その高尚な精神と独自性をアピールすればするほど

蓮舫のような輩に仕訳けられてしまう。

 

 元々からして、ケチなんだな。この国の人々は。

科学技術・藝術・スポーツという分野は

そういうものに対して特に弱い。

しかも、超一流どころが騒いでナンボの世界。

 

 だから、貧乏な三文物書きというのは、いつまでも貧乏なまま、だ。

美味いものを喰えず、巧い発想が生まれず、傑作が生まれるはずはない。

「ゲゲゲの女房」?貧乏が美しい?

そりゃぁ、成功した人が、振り返ったから美しい話になるのだ。

貧乏人が自らの貧乏を振り返ったところで、なんら美しい話など語られるはずはない。

 

 そして、曲がりなりにも三文文士を気取って、ライター旋風を吹かして。

パソコンの前に座りキーを叩く。最近思うんだが、ペンを使っていた頃より

肩が凝るよなぁ、と。

 

 なんかのCMの通りの順番で。

「目」⇒「肩」⇒「腰」の順番で凝り固まる。

書く・・ぃゃ、もとい・・キーボードを叩くだけでなく

貧乏な発想をフル回転して・・いるフリをする・・

時間も別にそこにいる必要もないのに。

 

 ネットで、つぶやいてみたり、顔も見たことのない相手にメールを

やりとりしてみたりする間も。ネットで買い物をしたり。

女房もネットで出前を頼んだりするし。

最近じゃ、寿司職人や料理人たちの派遣も可能だよね。

結局のところ、一日の大半を大して動くこともなく

パソコンの前に座っていたりする。

 

 ぃゃ、売れていたりもすれば、打ち合わせだの取材だの

出歩く機会も増えるのだろうが、「無駄に」動く機会が減り

それでも「明日は10,000歩は歩こう」等と思っているうちはまだしも

それが出来ずに順送りになる日々が続くと人間とは怠惰なもので

ほとんどトイレ以外、この場に居続けることとなる。

 

 しかもこの春に禁煙をしたのが、良かったのか悪かったのか_。

タバコの代わりに口寂しさを紛らわす飴だのクッキーだの。

メタボ体形直行と相成ったわけで。

 

 何を忙しいこともないのに、パソコンの前から離れず

かといって他の場所に居れば女房に邪魔にされる。

そんな厄介な存在となった・・稼ぎの安定しない・・三文文士は。

当然のように、女房に愛想を尽かされ・・出て行かれてしまう。

ぃゃぁ、正直に言えば・・置き去りにされて・・しまった。

 

「金が稼げないなら、稼げないなりに、

社会のお役に立つようなことを、なぜできないのかしら!」


 いやぁ出来た女房ですよ。

そんなひとことを残して。

 

 反省?


ぃゃぁ、反省してますよぉ。

女房が居なきゃァ・・なんにも出来ないですもの。

さぁ、困った。明日から生活を変えよう!

食事、洗濯、掃除に・・体操。

なんでもするぞ、女房に戻ってきてもらわなきゃァ。

 

 頼むよ、本当に、もぅ。・・ぃてぇっ!

で、伸びなんかすると、腕は上がらないほど凝り固まっているゥ。

そしてネットで・・按摩さんを頼むこととなる。


 


 2時間ほどしてインターホンがなり、玄関先に現われたのは

目が不自由な、夜でもサングラスをかけて

白杖をついた白髪交じりの坊主頭の中肉中背の爺さんの按摩さん。

まぁ、変なこと考えているわけじゃないし、この激烈な凝りを解すには

男手の方が・・理にかなっている。

 

 まぁ、あがってくださいな。

「はぁ、お邪魔しますぅ・・」

意外と、低いが艶のあるいい声だな。

居間に敷き布団を敷いておいたので。

「それじゃ、旦那さん、布団の上に、まず座っていただけますか、

ぇぇ、胡座で結構です。」

 

 按摩さんの長年の鍛錬の成果というか大きな手のひらが

両肩、両首、両耳、頭蓋骨の位置の感覚を得ているようだ。

次に首を頚椎に沿って、背中の脊髄の位置を確かめているようで。

「それじゃぁ、はじめますよ」

 

 両肩に置いた按摩さんの大きな手のひらが徐々に力が入ってくる。

「旦那さん、こりゃぁいけないなぁ、

肩凝りは放っておくとえらい事になりますよ。」

あぁ、既に悪いことも薄々は気がついてはいたんだけどさ。

さすがに手練な按摩さんと見えて。急に痛くなるようなことはないのか?

 

 そう思わせておいて、肩のツボに按摩さんの図太い親指がめり込んできて。

余りの痛さに・・ウッ・・声も出ない・・。

「痛かった・・ですかぃ?」・・そこで首を縦に振ったって。

見えるはずはないんだが。

しかし、指を引き抜かれると・・スッと凝りが抜けるような爽快感があって。

「旦那さん、大丈夫ですかぃ?」

あぁ・・大丈夫・・いやぁ按摩さん、

さすがに上手だねぇ、いっぺんに楽になったよ。

 

「いやぁ、まだまだですよ。」


 さっきの倍ぐらいの力でツボを突いてきた。

思わず、目から涙が落ちる程の激痛が走り、クッと息を詰まらす。

そして今度は徐々に指の力が抜かれてゆくと、

我が重苦しかった肩が不思議に軽くなる。

 

 さて今度は右腕の肘を掴んで、ゆっくり大きく回転させられる。

上に向かうと激痛がはしり、それを伝えると、

按摩さんはゆっくりとゆっくりと回していきツボにさしかかると

物凄い力で刺激する。骨がゴキゴキっと軋むような音がして、

アァハっ!と声をあげてしまう。

しかし力が抜けると非常に体が楽になる。

 

 今度は首の付け根を丹念に揉みこんで、首周り。

横にされて背中全面と通り一遍のコースが進んでいったのだが

按摩さん手を止めた。

「旦那さん、ちょいと体が硬すぎます。

ツボってのは血がそこで溜まっている状態なんですが、

旦那さん、体が大きいから、溜まっている血液の量が多すぎますよ。

どうでしょ、スペシャルコース受けてもらえれば、

血液の流れを良くしますよ。」

 

 売り言葉に買い言葉なんである。

何気に調子も良くなってきたし。

ぉぅ、それじゃぁ・・ひとつ・・頼むよ。

按摩さんは笑い顔を見せた。

「ありがとうござい・・。」

 

 腕を曲げられ手は肩に置かれて

肘を勢いよく後ろ周りに回す。

ゴキっ

 痛てぇ〜。

 

今度は逆の腕。

ゴキっ、ゴキっ

 

 耳を両手で覆われて

あぁ怖いな・・時代劇で忍者がやるアレね。

首を曲げて殺しちゃう・・・

ゴキっ、ゴキっ、ゴキっ

ぁ〜ぁ、終わったかな?

ゴキっ

 

 おい、俺の首はどちらを向いているんだぃ?

 

 次は腰。固まったまま回転した肘を持って

左回りに?

ゴキっ、ゴキっ、ゴキっ

 

 そのまま布団に仰向けに倒され

按摩さんはオレの背中に座り込んで。

足の先を掴んで勢いよく引っ張りあげた。

ゴキっ!ゴキっ!ゴキっ!ゴキっ!


 


 


 

 それから余りの痛さに気を失ってしまったようだ。

気がついて、恐る恐る目をあけると

まず右手の掌が見えた。

其れをどかすと、信じられないものが見えた。

自分の尻が丸見えだったのだ。

いやぁ勿論、ズボンは履いているが。

 

 鯖折り状態というか、ズボンの尻のポケットがちょうど

顎のあたりにあり、左手を動かそうとすると首筋に激痛が走った。

「ぁぁ旦那さん、気がついたかい。旦那さんの体がでかくてさ。

しかも硬いから・・随分と、苦労させられましたわ。

あぁ動こうとすると、凄く痛いかもよ。」

按摩さんが退くと姿見があり自分の今の姿が見れた。

 

 なんともあられの無い。

布団の上で、まるでペシャンコに踏みつぶされた蚊かなにかのように

鯖折りにされ、複雑に上半身と下半身を回転されて四肢は別な方向に

回されていて。

 

 思わず、その滑稽な姿をみると、自ら大笑いしてしまうほど。

・・哀れな姿だった。

「旦那さん、駄目だよ、少しは体動かすことしなきゃ

筋は固いし、肉は付いてるし・・でも、血流は良くなったよ。」

そぅかぃ、ほいじゃ元に戻しておくれょ。

「え?」

ぉぃぉぃ、元に戻してくれよぉ・・

「旦那さん、悪いが、そいつァ、オレにも出来ないんだょ・・」

えぇっ?

按摩さんは私の体から離れると、部屋を物色し始めた。

なんだよ、目が見えるのか?

「誰も目が見えないなんてひとことも言ってないさ」

 

 んまぁ・・そうだけど・・テイのいい強盗じゃないのか?!

「よく言うよ、旦那、オレのスペシャルなマッサージを受けたじゃないか。」

タンスの引き出しを開けて財布をみつけやがった。

をひ!オイッ!こらっ!財布を開けるな!

「一時間、1万円。あぁスペシャルコースだから、もう1万です。それに・・」

 

 それに・・?

「あとの係の者の手数料・・ま、ここにある全額ってことで」

畜生め!財布を懐に入れやがった!

ってぇ・・なんだよ、あとの係の者って・・。

「ぃぇね、旦那さんをここで解体するお医者さんですわ・・」

医者だ?解体だぁ?誰がそんなのオーダーしたんだよ!ふざけんな!

 

 按摩さんはサングラスを取ってポケットからメモ用紙を取り出して。

目を細めて確認する。

「ぇぇぇえとぉ、オーダーされたのは・・ぁ〜ぁ、奥様ですなぁ〜。」

アイツ・・・。

「旦那さんの臓器は、皆様お待ちかねですよォ。

あぁ、奥様から、せめてひとの役に立って・・との

メッセージがありますけど、読みます?」









 
         
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