「Dominion」
お前はひとりでコンピュータの前に座り この画面を見ているのだろう。 世界中の出来事がお前の目の前に集められ 国家が隠匿した情報や漏洩された機密ですら。 世界の全てを掌中に収めた気にでもなっているのだろう。 辺境の荒涼たる大地で遠隔操作された機械が人を殺していることも。 居場所を奪われた挙句、刃物を持ってバスに乗り込み他人を切りつけた男の事も。 酔っ払いどおしの喧嘩が、過熱報道で引っ込みがつかなくなった役者の事も。 そうだ、お前は全てを知っている。 お前の知りたい事は、ボタンひとつで。クリックひとつで。 瞬時に情報を与えられて。知的好奇心とやらを満足させるがいい。 それが果たして、正しかろうが、誤っていようが お前は一定の満足感を覚えるのだ。 そんな得体の知れない情報網の一端に身を置くことで いまやお前たちのひとりひとりが全て繋がっている。 この仕掛けなしに、生きていけないほどに依存しきっている。 切り離されれば、臆病な兎のように。 寂しさの余り死んでしまいそうだ。 だが、果たして本当に世界中の出来事が、情報が、 お前の前に現わされているのか_? 疑う気もしない? では、載ってないことを教えてやろう。 信じるかどうかは、お前次第。 お前の恋人が、他の男とラブホテルから出てきたぞ。 お前の父親が駅のホームから突き落とされたぞ。 下の階にいるお前の母親の後ろに刃物を持った男がいるぞ。 お前の身体は、新種のガンに侵されているぞ。 了 |