#4

   


 

「なんて禍々しい曲を弾くんだ!」という言葉で、その旋律が刺激する感情が

なんであったのかが分かった気がする。

「禍々しい。」その言葉の持つ恐怖感とおぞましさ。

しかし併せ持ったその魅力。

部屋に戻っても、やはりあの旋律が頭から離れず、

しかももう少しで答えに届きそうな、口惜しさ。

鼻歌を歌いながら、リズムを刻みながら。



チャッ,チャッ,チャッ,チャッ♪

チャッ,チャッ,チャッ,チャッ♪

チャッ,チャッ,チャッ,チャッ♪

チャッ,チャッ,チャッ,チャッ♪



ノートパソコンを開き、普段使いもしない音楽制作ソフトを立ち上げ

音楽の素養などない私が、リズムを刻んでゆくと

単調ながら、タンゴのリズムのループが出来上がった。



チャッ,チャッ,チャッ,チャッ♪

チャッ,チャッ,チャッ,チャッ♪

チャッ,チャッ,チャッ,チャッ♪

チャッ,チャッ,チャッ,チャッ♪



無限のリズムのループの上で

あの「禍々しい」旋律を乗せてみる。

何かが足りない、あの旋律を。

頭で考えるのではない、感じるがまま。



チャチャッチャ,チャッチャッ♪

チャチャッチャ,チャッチャッ♪

チャチャッチャ,チャッチャッ♪

チャチャッチャ,チャッチャッ♪



「禍々しい」という言葉の魔力と魅力を

感じるがままに、与えられた旋律の中に

足りないものは、いったいなんなのか?

生理に任せた旋律を小川が流れるが如く



チャチャッチャ,チャッチャッ♪

チャチャッチャ,チャッチャッ♪

チャチャッチャ,チャッチャッ♪

チャチャッチャ,チャッチャッ♪



なんども繰り返しながら

三つの足りないものがわかりはじめて

「第四音階」「第五音階」「休符記号」の三つを

パソコンのキーを叩き、補うと。

これが老人の意図した曲なのか_。

私のそのときの感激と云うのはなかった。

穴の開いたクロスワードが埋まったときの感動と云うのだろうか?

いや、もっとクリエイティヴな、いやそんな言葉に置き換えられない

もっと根源的なものにようやく辿りついたような、達成感のような

感覚に囚われていた。

なんとも数学の数式のように規則正しく整然と整えられており

なんともプリミティヴに感情の深い底から激震のように震わせ

ときとして刻まれるその鼓動は、能動的とも主体的とも一種攻撃的なものを感じさせ

ときとして涙腺を刺激するような、激しい感傷を匂わせるメロディの流れとなった。









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