#4  


 
道を挟んだあちらの二階のあの老人も狂喜したように

こちらを眺めている、いやそれどころか、あの壊れたバンドネオンを

合わせて奏でているようだ。蛇腹を伸ばしたり押し込んだりしている間に

こちらを意識して、ノリに乗っているように首を上下に振りながら

奇妙なメロディと奇抜なリズムのうえで。


奇怪な老人は窓を開け放ち、公園で云ったようなあの奇怪な言葉を

大声で言い放った。

まるで念仏を唱えるように、そして曲に合わせて

その荘厳さすら漂わせるクライマックスには。

感極まったのか、老人は張り裂けんばかりの大声で、海に向かって叫んだ!

「出でませ!」と。



吹きつける湿り気を帯びた潮風は電線によって、

また石造りの煉瓦の建物によって

更に忌々しい不気味なサブメロディを奏ではじめる。

湧きたつ雲は月の光を覆い、不穏な生温かさをもたらした。


次の瞬間、落雷が落ちたのだろうか、私の目の前は真っ白に光り

次に停電になったのか、闇に包まれた。

と、同時に大地が揺さぶられるが如く大きく揺れ、傾きながら

あの岩礁の辺りから、巨大な黒いものが

海面からたちあがり、地響きを上げるような、

太く大きな咆哮をあげ、あたりに響き渡らせた。


その形容しがたく不定形のような海洋生物の特性と

まるで地球の生き物ではない一対でない奇数のそれぞれ器官が

禍々しさと、到底、理解を共有できない恐怖をもたらすそれを

目にした瞬間、腰をぬかした。暗黒の海底にいたのであろう其れは

自らを青白く発光させていた。

あれが老人がムニャムニャと口の中で呟いていたような

“太古からの”“異教徒の”“神とは言わないが神に近い存在”だというのか_?

あれが“ひとばしら”や“いけにえ”を欲している

という“魔物”だというのか_?

海側の窓を覗き込むと、巨大な存在の黒い影がみえる。

岩礁よりも大きなその影は無数の触手を伸ばして

街の人々を捕まえては魔物の口に放り込んでいる。


そんななか石畳の上を木靴で歩くような、カラコロとした音が鳴り

下の道を見ると、あれは老人の息子ではないか!

大柄な老人の息子が、縛り上げたパオラの体を抱えて、

黒い巨大な魔物に向かっていくではないか。

パオラを生贄にするというのか・・。


その後を追うように、ちいさなあの老人が、壊れたバンドネオンを

狂ったようにかき鳴らし、ビッコを引きながら、階段を下りてきて

石畳の上で、私の視線が止まるのを待ってか、こちらのほうをジッと見つめて

暗闇の中でも分かるような、満面の笑みを見せた。

その下には底なしの悪意を湛えた海溝のような暗さをもった、笑みを。

「おまえさんのお蔭だ・・」

とでも云うようにケタケタと下品な笑い声を上げて

海のほうに向かっていった。



いや、そんなことよりも、私を夢中にさせ、図らずも・・。

図らずも、完成させてしまったあの音楽は、あの巨大な怪物を

海溝から、いや地獄の底から召還させるための儀式の曲だったというのか。

パソコンが繰り返す禍々しい旋律のループは、電源を落とそうとも

壁に投げ出そうとも止まることはなく音量を増して魔物の音楽を奏で続けた。


チャチャッチャ,チャッチャッ♪

チャチャッチャ,チャッチャッ♪

チャチャッチャ,チャッチャッ♪

チャチャッチャ,チャッチャッ♪


そして私が、この私が、あの獣を解き放ってしまったというのか_。

そして愛しいパオラを死に至らしめてしまうのか_。


「ソ」と「ファ」を足したばかりに。








 感想コメント (8)


はにびーくん。ありがと。でも、そりゃぁアンマリなホメ殺しだぜ。マンションに書いたが余りにベタベたなもんで、個人的には落ち込んでいるんだ、恥ずかしくてw | 平岩隆 | 2011-05-02 20:43:57


しまった。やっぱ勘違いしてたか。評価10のことだよ〜だ。10点満点だよ笑。 | hONEY♂bEE | 2011-05-02 16:18:34


はにびーさま。曲は10点だろwでもな、最初から在りきなあの「オチ」まで繋げるのも結構苦労したんだぞ・・・orz | 平岩隆 | 2011-05-02 08:20:42


10点だ! | hONEY♂bEE | 2011-05-02 06:14:10


こゆき・Sさま・・・いや、お恥ずかしぃぃぃぃ・・・orz | 平岩隆 | 2011-04-24 17:41:13


お題がどう絡んでくるのかと…お見事です! | こゆき.S | 2011-04-24 14:15:35


黒神さま。煽ててはいけませんw苦し紛れの振り逃げのようなものですwなぜタンゴか?それは・・・マンションの方で・・orz | 平岩隆 | 2011-04-19 00:42:11


素晴らしい曲をご存知なんですね! ノリノリの気分で作品を読むことが出来ました。章ごとに違う曲を聞かせる斬新な手法、ラストで登場する謎の怪物……間違いなくこれは傑作です! | 黒神霧人 | 2011-04-18 22:42:07



追記

「短編家」コミュのお題が「ソファ」で。

もうねR18か「人間椅子」的なものしか思い浮かばなくてですね。

けど書いているうちに「人間椅子」そのものになっちゃうわけですよ。

でも黒神さんとか作品にしてくるわけでありまして

なんとか私も投稿したくて、これでも必死に考えたんですよ。

バカにしてんだろ?!とか思われてもですね、試作品の数も過去の拙作にない夥しい数に及び・・って7つほどですが。

さて、口上でも述べましたが基本的にはラブクラフトの

「エーリッヒ・ツァンの音楽」と「ダゴン」にヒントを

得て・・・いやモロにそのままですがw・・え?なんで

舞台が南米?なぜタンゴ?・・それは・・

「ダゴン」「ダゴン」「タゴン」「タゴン」・・「タンゴ」!



ほらね?!


あ・・・怒らないで・・・orz






       

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