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「短編家」さんの先月のお題が「すいか」だったわけですよ。
ほいで丁度、跡地2の時期と重なって昼飯喰いながら仕上げたものでしてw
でも短編家さんには投稿し続けたい、とか変な強迫観念もあってですね♪
で、頭ぁ捻って捻って、書こう!とすると返って焦って書きにくくなるもんですねw
結構右往左往しながら結構苦し紛れに拙作「すいか泥棒」を書き上げたのですが。
ホッとしてフリーな空気になるとこうも簡単にアイデアが浮かぶもので。
というか子供の頃を思い出しただけのことですが。
その昔テレビで見たのかな「悪魔の植物人間」というなんとも禍々しい映画がありまして

植物と人間を合成して云々な得てしてお気楽なドクターモローの兄弟映画か?と思えば
なんともインモラルな、「ご本人登場映画」だったりもして、なんとも座り心地の悪い映画で、
B級映画かと思えば妙な重さもあって、かといって出ているのがドナルド・プレゼンスだし・・
という観ていて扱いに困る映画がありましてですね。
むしろ今回の文章に近いDNAを持っているのは、異物と人体の粘着性の融合という
点じゃクローネンバーグの「ビデオドローム」あたりでしょうか

ここ数年庭先で「ぷち」ガーデニングというか「ぷち」家庭菜園というか
やっておりまして。すいかは作ったことないけどグリーンカーテンなどは
出来ているのでありますよ。自身の精神安定にも役立っていますが、植物を育てていると目につくわけですよ。生命の巧みな生存戦略とか。激しい生存競争とか。
そういうものをモチーフになにか書いてみたいと思ってはいたのですが。
今回はその第一弾でしょうかw
仁科カンヂさんのGreen’s Willなんかスゲェ期待しちゃってます。

今回のサウンドトラックはチャイコフスキーでございます。
最近ロシアの作曲家がヘビィローテーションざんす。

その後何度か拙作の根幹を成す
なんと不肖平岩のネタもとのひとつ「植物もの」の第一作なのでありました









「すいかのたね」



Tchaikovsky - The Nutcracker, Op. 71 - Part 15/16
15. Dance of the Sugar Plum Fairy



タァちゃんは、3歳になる前だというのにご両親も驚くほどよく食べる。
好き嫌いもなくモリモリと食べるさまは、おかあさんは頼もしく思い、おとうさんの励みとなった。
真夏に産まれたタァちゃんに三度目の夏が来て、大好きなすいかを食べる。
井戸水をタライに汲み上げて日陰ですいかを冷やして。

うちのタァちゃんは、すいかが大好きなの。
もうね放っておくとひとりで半分ぐらい食べちゃうのよ。
黙々と食べるタァちゃん、余程好きだと見えて、誰も教えはしないのにきれいに食べる。
赤い部分が無くなるまできれいに食べる。
すいかの皮がペランペランになるまでしっかりと食べる。

さすがにお客さんの手前、
タァちゃん、すいかは逃げないから、ゆっくりおあがんなさいな。
しかし黙々と大好きなすいかにかぶりつくタァちゃん。
おかあさんは呆れて云った。

すいかの種は外に出さなきゃダメだよ。
おなかの中で育っちゃうとおなかがふくれあがっちゃうよ、すいかみたいに。
一瞬、びくりと動揺したが、それでもすいかを食べ続けるタァちゃん。

その夜、すいかを食べすぎたのか、おなかを壊したタァちゃん。
ひどい顔をして、おなかいたい、というと。
これも薬だ、と云わんばかりに、おかあさんは、あんなにいっぱい食べるからよ。
というだけで。
なんどもなんどもトイレに通う間に疲れてしまった。

タァちゃん、おとうさんに弱弱しい声で尋ねる。
すいかの種食べると、どうなっちゃうの?
おとうさんは真夏の怪談話のようにおどろおどろしい声で。

おなかの中ですいかの種が芽を出すんだ。それから根っこが生えて。
タァちゃんのおなかの中で、栄養を根から吸い取って、弦を伸ばして
やがて育って、タァちゃんの頭のてっぺんに芽を出して葉っぱが広がって
どんどん育って・・。

それを聞くとタァちゃん、ビックリするが
それじゃすいかの実が出来たら、そのままおなかの中で食べられるん?
と、子供の発想に、返っておとうさんは驚かされてしまった。
そのまま、タァちゃん、おなかが痛いまま眠ってしまった。



朝起きるとタァちゃんは驚いた。
からだが動かないんだ。
おなかがゴロゴロ鳴って、ひどいげっぷを吐いて。
でもからだが動かなくて、タオルケットを剥いでみると
タアちゃんのあしが根っこになっていた!
恐る恐る、両手を頭の上に伸ばすと・・指先に感じる・・
頭の上から・・なにか生えているよ。
あぁ、食べたすいかの種が・・育った・・。
え・・おなかの中にすいかができる・・。
え・・電気屋のおじちゃんみたいなおなかになっちゃうよ!
おとうさんとおかあさんを泣きながら呼ぶタァちゃん。
普段は泣かない強い子なのに。
不思議がってタァちゃんの側にきておどろいた。
タァちゃんの頭の上に植物の双葉が生えている!
みるみるうちに双葉は四つ葉になり伸びているじゃないか!

おとうさんもおかあさんも驚いて、でもいったいどうすればいいんだぃ!
お医者さんを呼べばいいのか?え?植木屋さん?
とにかく救急車!
そのときタァちゃんが
痛ッ!と声を上げて、ふりむくとタァちゃんの腕から細い弦が何本も
タァちゃんの肌を突き破って伸び始めた!
泣き叫ぶタァちゃん、おかあさんはたまらずタァちゃんの横に寄り添って
おとうさんは救急箱をとりに・・
今度はおかあさんの叫び声がして、タァちゃんから伸びた弦が
おかあさんに絡みついて身動きとれなくなった!
おとうさんは二人のもとにかけよるとタァちゃんとおかあさんの
体を突き破って伸びた弦に絡まって・・。
タァちゃんの心臓の鼓動が弦に伝わって脈打って。
おとうさんとおかあさんの身体に絡まった弦は分かれて、
枝を伸ばして身体の中に入ろうと、入りやすいところを探すように
這い回って。
タァちゃんのあたまの上に伸びた幹は徐々に太くなっていって。
弦は三人に絡まり、おとうさんとおかあさんの身体に入っていって。
植物に栄養を吸い取られたタァちゃんは徐々に痩せ細り、
表情もなくなり意識も遠のいていって。
心配したおかあさんは幹になった腕を回し節くれだった指で
タァちゃんを撫でるが、おかあさんも意識が遠のいていって。
おとうさんは、それでも必死に動こうとしたが滋養を吸われて
樹木に変わってしまった我が身を見ながら、最後に完全に木になった
我が子の姿を見た。
耳に蕾をつけて。やがて花を開き、実をつけるのだろう。

それからしばらくして。
タァちゃんの幹が葉を茂らせながら天井を突き破ったころ。
小さいが可憐な黄色い花を着けた我が子の足元に
ゴロンと大きな球状の実がついた。
不気味な状況だが我が子の成長をみながら、
家族がひとつになったことに幸せを感じた。
ひとつになった家族は樹液の涙を流しながら最後の記憶をとどめた。









 
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