ワシん体ぁ、滝壺に投げられてさ、糸に絡められて滝壺に引きづり込まれてさ
だがなにが気に入らないのか、ぷいっと放り出されてさ。
冷たい川の流れに浸かりながら淵に流れ着いておってさ。
あん咎人に斬りつけられてさ、死んだはずだのにさ。

 目の前では咎人の男が絡新婦の化身のおなごの手足を縛り付けてよ。
後ろから犯しておったがよ。
そのうち咎人が果てちまったらよ。
おんながさ、みるみるうちに一丈ほどにもおおきくなってさ。
鬼のような形相になってさ。
振り向いてあん男を頭っからさ・・バリバリ喰っちまった・・。
岩魚みたいによ。鰯みたいによ。
あぁそんなもん見ちまったからよ。生きた心地なんかしやしないさ。
あぁワシんことに気が付いちまった・・。
「まぐわいしをのこを、とってくらふは、くものつね。」
妖しく怪しく笑うんだにぃ・・。


   

 悪鬼のような形相からもとのおんなの顔に戻ってさ。
「ここで見たことを他に云ぅてはならん」
とワシに云うんだ。
もう頷いて、頷いて・・。
助けてください、後生ですから、助けてください。

すると・・・
「昔も同じことをいったはずぞ」
え?
「忘れたか和尚、おまえは忘れたがっているようだが・・」
はぁ・・・ばれてたんですかぃ?
「あたりまえだ。」
へぇぇ・・絶対にここで見たことを他には云いませぬぅ・・・。
「おまえが皆に漏らしておるのだろうが。
漏らせばわらわの餌がふえるだろうと思ぅたか。
腹が膨れればわらわがお前を許すとでも思ぅたか。」
だとしても!
だとしても、腐っても崩れても仏門に使える身!ワシを喰ったら死にますぞ!

「死ぬかどうか試してやるわぃ!
信仰を忘れた坊主など仏もとうに見放しておろう。」

 後生でございます、許してくださいまし
「なにをたじろく、昔、まじをぅた仲じゃないかぃ。」
妖しく微笑むと、動かないワシの体をひょいと指先で掴んで、
あぁ堪忍して下さい・・
頭から・・
あぁ・・。



   










 ご感想


狂言巡さま!伝説と創作がチークダンスだなんて!いよっ!コメント界の彦麻呂!←嬉しくないかも・・スマンです・・・orz | 平岩隆 | 2012-02-06 23:25:21 削除

伝説と創作がチークダンスを! 最初から最後までドキドキでした♪  | 狂言巡 | 2012-02-06 22:25:26 削除

こゆきさま。youtubeってのはサウンドトラック探しには重宝します。今回は最初のタムケだけしか知らなかったんですがいい曲を探せました! | 平岩隆 | 2012-01-30 16:03:17 削除

尺八の音がこれまたピタリとはまってました!糸に絡めとられてしまったらもう逃げられないのですね… | 退会ユーザー | 2012-01-30 15:26:00 削除

大橋さま、女郎蜘蛛のメスはオスの数倍の大きさで手足を縛り付けてSMチックにマジわうという団鬼六の世界でございまする | 平岩隆 | 2012-01-29 17:57:28 削除

猫春雨さま。浄蓮の滝の近くの宿で食した猪鍋の美味さが忘れられませんw今年の平岩、Hかも・・です・・orz | 平岩隆 | 2012-01-29 17:55:47 削除

伝説をベースにした世界観が巧みに描かれているなと思いました。ジョロウグモのオスは命がけでまぐわいをするんですよね。 | 大橋零人 | 2012-01-29 17:08:58 削除

浄蓮の滝の伝説は知っていました。でも創作の部分は雄雄しく淫靡ですね。 | 猫春雨 | 2012-01-29 16:41:41 削除 

初めまして。夜来香と書いてイエライシャンと読みます。花の名前ですが、懐メロの曲名でもあります。
この小説は語り口が上手くて、グイグイ引き寄せられました。とても面白かったです。
去年の春、京都市内の舞妓さんや芸妓さんの居る花街の一つである宮川町の京おどりを観ました。その演目の一つに源頼光の女郎蜘蛛退治の滝の場面があり、小説を読みながら思い出し、一層楽しめました。
私には読書の他にも茶道や編み物など色々趣味がありますので、ゆっくり、ぼちぼちと平岩さんの小説を全部読むつもりです。
ところで、「だに」というのは何処の方言でしょうか?ちょっと興味を持ちました。 

夜来香さま!ありがとうございます!!
この文章で扱いましたのは伊豆半島は天城峠の浄蓮の滝に
伝わる伝説をモチーフにしております。
いまではしっかりと観光地になっておりますがw
「だに」というのはですね、私が幼少の頃過ごした浜松辺りで使われておりまして
その後伊豆半島のほうに住み着いたのですが、そこでも「だに」が使われておりました。
拙作では処女作の「少年時代」でこの「だに」が爆発してますが、浜松の思い出です。
今後の文章のネタになるかもしれませんが伊豆の海女さんの歴史などを紐解くと
浜松辺りから出向いた海女さんがいたのかもしれません。
今後ともよろしくお願いいたします!






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