ええとdNoVeLsさんでの専用デビュー作であります。(キリッ)
こちらではあんまり映画のタイトル使いたくなかったですが、
書いてみたらこんな感じになっちゃったんでこのタイトルでいきますw
「雨の中の女」。
かのフランシス・フォード・コッポラ監督作品。
「カンバセーション」とか微妙に変な不思議な味わいの映画も撮ってましたな。

それとは関係なくwいや全く関係なく。
こちらでは兄貴と呼ばせていただいておりますフレンドボーイ42様の
コミュニティに初参加するため、ここのところ冗長になりつつある不肖・平岩。
ここではストーリーよりは寧ろ昔よくあったイタリアン・ホラー的な感覚で
新境地を開拓したく少しだけ変なテクを心掛けながらも、独自なジャーロな世界を書いてみました。

んなアホな?!
とか突っ込みいれまくりながら、お読みくだされw

暗黒掌編工場2011年6月のお題「雨」で書きました。










402号室





 会社を出るころには霧雨程度だったが、最寄の駅を降りるころには久々の
雨らしい天気になっていた。
駅前のコンビニによりこんで、果たして何本目になるのか透明のビニールの
傘を買って表に出ると、かなり雨音が強まっていたので、小走りに家への道を進む。
長引く不景気で夜の客の少なくなった飲み屋横丁を通り過ぎ、
シャッターを締め切った店の多い寂しい商店街を抜けると、いっきに暗くなった
感じがする。
街灯が四つ角ごとに燈ってはいるが、随分とひとけのない闇である。
それでもまだ駅に近い方なので、電車から降りた人たちが家路を急ぐうしろ姿
が見える。だが、質屋の広告の付いた電信柱の角を曲がったあたりから、
そうした姿も極端に少なくなり、聞こえるのは私の立てる靴音だけが雨音の中
に聞こえた。
雨足はさらに強まり、やがて私の立てる靴音は雨音に掻き消され、
質屋の広告の付いた電信柱の角を曲がったところで、私は速足となっており、
水たまりに足を叩き付け跳ね上がった水が、そこにいた女性にかかって
しまった。

「すいません!」

私は女性のほうを向いて立ち止まり、謝った。
が、女性の姿はなく、私はきょろきょろと辺りを探すが女性の姿はない。
黄色い雨がっぱを着た女性の姿が。
不思議な感じがしたが雨が強く降っていたので、先を急いだ。



質屋の広告の付いた電信柱の角を曲がると、その影に女性が立っているのに
気が付いた。
「先程はすいません、水がかかってしまって・・」
黄色い雨がっぱを着た女性はフードで見えなかった顔を持ち上げて
私の顔をみると歯を剥き出して笑い声をあげた。
別に普通の女性には違いなかったのだが、その笑いは、
なにか常軌を逸したような普通のものではなかった。
女性は私の顔を見ながら大声で笑い声をあげて。
その毒を孕んだような微笑みは底知れぬ悪意を感じさせた。
その手には大きなナイフ・・いや包丁・・いやとにかく・・刃物!
私は、身に迫る危険を感じ、雨の中を猛然と走り出した。

いったいなんなんだ!

雨の中を猛然と飛沫をあげて走る私。
靴底は水に塗れて不快な感触が、更に気分を冷え冷えとしたものにしたが
体中の体温がこれ以上ないほどあがり不快指数をさらに上げていた。
ふと息が切れ、立ち止まり振り返ると・・。
激しい雨音のなか暗い住宅街の真ん中の道を。
そこだけ照らされている角の街灯の中を。
跳ね上がった雨煙の中を猛然と。
刃物を振り上げた雨がっぱの女が追いかけてくる!

いったいなんなんだ!

雨の中を猛然と飛沫をあげて走る私は、質屋の広告の付いた
電信柱の角を曲がり息も絶え絶えに、
自宅のあるマンションのエントランスに辿り着いた。
カードキーをリーダーに差し込み、ガラス張りの自動ドアが開くと
転げるように中に入った。
すると、女が、黄色い雨がっぱを着た・・刃物を持った女が!
すんでのところで自動ドアが閉まった。

助かった・・。





  
いや、女は一度悔しそうな顔を浮かべると、刃物を持った手で、
ガラス張りのドアをなんどもなんども叩きつけ、
ガラス越しに私の顔を見ると高らかに笑い声をあげた。
その敵意剥き出しの、常軌を逸したような眼差しが、
異常な神経の持ち主であることを物語っていた。
しかし私はこの場に入ってこれない女に対して、優越感を感じながら
ガラス越しに女を見て携帯電話で警察へ通報した。
逃げようが何をしようが、
もうすでにお前の姿は、
防犯カメラに収められている。

警察は至急こちらへ向かうという。
それまで、自宅で待機しろ、と指示されたので
4ケタのナンバーを押して部屋にいる妻へ連絡し、
エレベーターに乗り9Fの自宅に向かう。
自宅に戻り、異常な出来事を妻に話しながら着替えをする間に、
管理会社と警察から電話があった。
妻は濡れたスーツを片付けながら、私に言った。
「で、その女のひと、知ってる人?」
いいや、初めてみた女さ。
「へぇ、怖いわねぇ、ところでどこの角を曲がって?」
ほら、質屋の広告の付いた電信柱の角を曲がったところでさ・・。
「やだ、だってここから駅まで歩いて5分でしょ。
曲がる角ってすぐそこしかないじゃない。」

ドアホンが鳴り、モニターに映し出された光景に腰を抜かした。
あの雨がっぱの女が、カメラを覗き込んでいるのだ。
してやったりとばかりに、気の狂ったような笑い声をあげて。
その顔をどかした瞬間に映し出されたエントランスには
管理人と恐らく警官が床に倒れているではないか・・・!

妻にドアに鍵をかけて近づくな、といいながら、携帯を探した。
焦れば焦るもので、そういうときにかぎって携帯が見つからない。
イライラして妻にあたりながら・・携帯が鳴った。
私の携帯が玄関に置いてあるのに気がつき、
玄関に取りに行き電話に出ると・・。
私は驚愕した。
あの女が、高らかに笑っていたのだ。
私は、興味本位に覗き穴から外を見ると、
あの雨がっぱの女が目の前で携帯を持って立っている。
片手に刃物を持って。刃物が血に染まっているところを見ると・・。
私は、ドアチェーンを確認すると・・。
その音に反応して、女がドアの向こうから
激しく叩いてくるのであまりの恐ろしさに腰が抜けてしまった。
あまりに異常な状態に、妻も慄いている。
ドアの向こうに気の狂ったような殺人者が今まさにいるのだから!

「いったい誰なのよ!」
妻は突然のショックにパニック状態となり、抱きしめて落ち着かせた。
ここにいても仕方ない。
ロックとドアチェーンを確認して、携帯を持って居間に戻る。
携帯が鳴り、妻が泣き出した。
携帯を出もせずに切り、再び警察に電話するが・・。
なぜか圏外と表示されて。
妻が気を取り直して「コーヒーでも入れてくるわ」とキッチンに向かった。
私は気持ちを落ち着かせて、再び携帯を手に警察への連絡を試みた。

そのとき背後にせまる聞きなれない音に気がついた。
ぐっしょりと濡れた水の滴るような足音を。
大量の水滴がぼたぼたと落ちているのだろうか。
ゆっくりとした足音の他にボタボタと音がする。

ジトッ、ジトッ、ジトッ、ジトッ、
ボタ、ボタ、ボタ、ボタ、

ここは駅近の一等地の高級マンションだ。セキュリティーも万全だ。
あんなキチガイ女が襲ってこようとビクともするもんじゃない。

ジトッ、ジトッ、ジトッ、ジトッ、
ボタ、ボタ、ボタ、ボタ、

いったいなんなんだ!
なんで私を殺そうとする!
なにか恨みでもあるというのか?!

ジトッ、ジトッ、ジトッ、ジトッ、
ボタ、ボタ、ボタ、ボタ、

いったい・・誰なんだ、おまえは!

ジトッ、
音が止まった時、身に危険を感じ振り返ると
居間の入り口に黄色い雨がっぱを着た女が刃物を持って立っていた。
フードをあげると、あの常軌を逸した深い憎悪がもたらす
嘲った笑顔があった。
高らかに不気味な笑い声をあげ、私に向かって振り上げた。





なんども、なんども、なんども、なんども_。

女の憎悪は私の体を貫いていく。
真っ赤に染まる黄色い雨がっぱが目の前に広がり
意識が遠のくなかで、私は最期の言葉を吐いた。
それが果たして言葉になったのか、ならなかったのか、定かではないが。

俺が何かしたのか?

そのことばに一瞬、女は私の目を見たが、更に高らかに笑いながら
なんども、なんども、刃物を刺してきた。
最後の一瞬、
その女が誰なのか、
わかった気がしたが、
思い出せはしなかった。

なんども、なんども、なんども、なんども、なんども。

サッシの向こうでは、雨が激しく降っていた。

 



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