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暗黒掌編工場 2012年春季企画 テーマ こども
ってことでぃて。
ここんとこ暗黒掌編工場に連投してたりしまして。
なにせ暗黒なもので書いていると気分まで暗黒になっちゃうわけですよw
てなことでアンチテーゼな意味合いをこめてw

暗黒じゃないです。
(それじゃダメじゃん copyright by 春風亭昇太)

これは「ウルトラマン」とか「スーパーマン」とかとなんら変わらぬ
救世主誕生の物語でございます。
不肖・平岩版「無職戦士●●●●」な赴きも織り込みつつ
これが本当の「跡地アヴェンジャーズ」だッ!な一作w

劇場デビュー作「オーメン」で大ヒットを記録し、クリストファー・リーヴ版
「スーパーマン」を監督し、「リーサル・ウェポン」シリーズを全作手掛けた
リチャード・ドナー監督は大味ながらハズレの少ない高打率監督ですが、
なんといっても自作のDVDでのオーコメが必聴なひとで
「映画」というよりは「草野球」の監督的な豪快な人柄が滲み出てくるわけですが。
(「オーメン」とか大爆笑モノであります。プロデューサーと揉めた「スーパーマン」は必見!)
前述の「スーパーマン」のリーヴの出てくる前の少年時代のシーンなんてものは
パルプコミック映画であることを忘れてしまうほどの芸術点の高さに涙が出てくるほどでしたな。
その辺にあやかって。
おやじ目線のヒーロー誕生物語。
モデルはですね。ご近所さんのおやっさんですが。

サウンドトラックはヘンデルのサラバンド♪





 「せがれ」

 
George Frederic Handel - Sarabande




うちのせがれは親の私が云うのもなんだが、出来たせがれでね。
生まれたときからあぁ4000超えてたからな、母さんも苦労したよ。
だから飲むミルクの量も半端なものじゃなかった。
給料が安い時期だったからね、ホント社員寮じゃなきゃ食い詰めていたな。
ところがそれが禍でもあって、とにかく泣き声が大きいから寮から
追い出されるんじゃないかと思っていた。
特に上の階が上司の課長だったからバツが悪かった。
で、優先的に借上げ社宅に、テイよく追い出された。

山の斜面だが庭付き一戸建て。
せがれを育てるには最高の場所だった。
近所にウチがないのは寂しかったが家庭菜園を楽しめるほどの庭があった。
せがれは木々に、植物に囲まれて育った。
虫や小動物と戯れ、風の囁きを聞き、星の瞬きに目をやった。
たいした病気にもならず、元気に丈夫に育ってくれた。

やがて学校に行くようになり
せがれは自分がほかのこと違うことを気づき始めた。
わたしら小柄な夫婦には不釣合いなほど大柄な体躯に恵まれながら
少々ほかのこどもたちより鼻の大きなところが
こどもたちの好奇を誘い、いじめにもあった。
勉学にも励み、学校で一番になったこともあるがそれもやっかみの元にもなった。

だがぐれることはなく、ただ塞ぎこんでいるような仕草をみせるようになった。
休みの日ともなれば、友達と遊ぶこともせず畑仕事をする始末。
虫や小動物と戯れ、風の囁きを聞き、星の瞬きに目をやった。

せがれは夜毎に星を眺め、流れ星に祈りを託しているようだった。
父である私に悩みをぶつけることはあったが、
果たして答えてやれることは出来たのだろうか。
“ぼくはいったいなにものなのですか_。”と。
おまえは大事な私のせがれだ。と、そのとき答えてやれなかった。
ただ私が照れていただけなのだが。

少年のときを過ぎ、青年になったせがれは社会に出ることになった。
学業的にも体躯的にも恵まれたせがれだったが、人好きのしない性格と
特徴的すぎる大きな鼻のこともあってなかなか打ち解けることが出来ず
仕事も長続きしなかった。

せがれは、せがれなりに悩み悔しさを木々にぶつけていたこともあった。
夜毎星空に祈り、涙を流した。
せがれは私に尋ねた。
“ぼくはいったいなにものなのですか_。”と。
私はやはり照れて、なにも答えてやれなかったばかりか
おまえは社会に身の置き場のない人間の屑だ。と、罵ってしまった。

私とせがれの間に溝が出来てしまった。
思い返せば、せがれの生まれるのが他の子より若干早かったことも
私につまらない意地をはらせた。
そんな昔のことで、そんなくだらないことで。くだらない妄想の果てに。
妻を殴り、せがれを殴ってしまった。

夜毎に星空を見上げ涙するせがれ。
“ぼくはいったいなにものなのですか_。”と。
私にも妻にも似ていない、優秀な頭脳と恵まれた体躯を持ちながら
醜い大きな鼻を持つ・・
おまえはいったいなにものなんだ?

いったいなにを泣いているんだ?

いったい誰に祈りを捧げているんだ?

 

そしてあの日。
大きな揺れが起きて騒然となった。
暫くして大きな津波がやってきた。
恐怖に慄き身も動かせない私たちに車が船が瓦礫が襲い掛かってきた。
海岸線の町は一瞬にして津波に呑み込まれてしまった。
だが死者はいなかった。
けが人も少なかった。



津波の割れる特殊な地形だった・・という当局の説明は間違いだ。
町の人々は知っている。
勿論私たち夫婦も知っている。
ウチのせがれが、大声を張り上げ迫りくる海水を、瓦礫を・・。
なんともしれない・・“ちから”で人々が山の上に逃げる間、食い止めたのだ。
ひとの“ちから”ではない到底ない、圧倒的な“ちから”をもって
人々を窮地から救ってくれたのだ。

  

津波が引いてゆくと、せがれは疲れたように眠った。
やがて起きると、せがれは、旅立つときがきた、という。
私は、妻は、反対もしなかった。
おまえは親の私が云うのもなんだが、出来たせがれだ。
町の人々を救ってくれた。ありがとう!

そのとき、せがれが誰になにを祈っていたのか、を。
せがれがなにに涙していたのか、を。
そしてせがれがなにものなのか、を。
解かったような気がした。

私はせがれを理解してやれてなかったことを悔いた。
せがれはある星空の夜に、自分がなにものであるのか、星に聴かされたそうだ。
そしてこの世に生まれ出でた意味について、知らされたそうだ。
そんな大事なことを私は理解してやることが出来なかった。
だがせがれは、実直な父だからこそ。息子として生まれることを許された。
と私を慰めてくれた。



せがれは、光に包まれながら星空に飛んでいった。
どこにいっても、おまえは大事な私のせがれだ!
いつでもここに帰ってくるがいい!
それまで私たち夫婦はここで待っているから!



    

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