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暗黒掌編工場2012年9月のお題「残り」で書きマシてん・・。

私が物心ついた頃、映画「ジョーズ」が公開されまして
とにかく「海で泳げない」ヤツとか「足のつかない深いところは駄目だ」とか
「プールですら真っ平だ」とか泳げないヤツが増えてしまいまして。
そのぐらい子供心に恐怖を植え付けたジョーズ!は、いやあ今観ても立派に
マスターピースでありますが。未だに作り続けられるサメ襲撃映画の元祖にして頂点。
スピルバーグの天才ぶりに感服いたします。
さて暗黒掌編工場久々の登場ということで、夏の終わりに「泳げなくしてやろうか!」という
悪意に満ちた掌編など。


あん?私は泳げますよw水泳部でしたしw



定番ですが敢えてサウンドトラックの指定はいたしません♪
John Williams JAWS Theme









「残量ナシ」




目の前が不思議と白く明るくなってきた。

そんなわけがあるはずがないのに。

ひとまず落ち着くんだ。

そう自分に言い聞かせながら。

息を整えるんだ。

深く吸い込むことはない。

この洞窟に隠れている限りは安全だ。

だから、落ち着くんだ。

しかし眼を閉じると返って白い世界が広がる。

その白い世界が段々と生臭い黄色い色に支配されてきて。

眼を開けると乏しい岩場の隙間から降り注ぐ光のさえ黄色く見える。

突然背後から襲われたときは命を奪われると思った。

だがこの岩場に逃れることが出来た。

あの巨体ではこの洞窟には入ってこれまい。

バッテリーのゲージが随分と乏しくなってきたことを示している。

照明がヤツをひきつけるかも知れない。照明を落とす。

酸素ボンベのゲージを見るとのこりはもう僅か。

船の上では仲間が心配しているだろう。


そんな時間だ。そろそろあの凶暴な巨大サメは行ってしまっただろうか。

洞窟の入り口の方をみやると、恐る恐る登ってゆく。

酸素が欠乏している・・間違いない。

まるで胃液の中を泳いでいるような。

海底の世界が黄色く見える。

 

洞窟の入り口に辿りつくと、なんていうことだ!

黄色い世界が赤く染まっていた。

僕らの乗ってきた船の残骸が海底に突き刺さっているのだ。

おびただしい人間の部位・・おそらくぼくの仲間たち・・

仲間たち・・だった・・肉片が散らばっている。

そして頭上にはあの巨大なサメが悠然と泳いでいるではないか_。

それよりサイズの小さなサメたちが集まって肉片の残骸を引き裂いている。

小さいヤツでも・・いやそれでも2-3mはありそうだ・・。

 

パニックを起こした僕を見下していたあのいちばん大きなアイツは

僕に向かって突進してきたので、再び洞窟の中に逃げ込む。

すると洞窟にサメは体当たりしてきた。

恐るべき執念深さ。

しかも他のサメも集まってきている。

ボンベのゲージに目をやる。

暗くて見えない。

照明をつける。

酸素もバッテリーもほとんど残量はない・・。


息を静めるんだ。

パニックを起こすな。

きっと助かる・・。

どうやって?!

仲間も船もやられちまったんだぞ!

救援がくるだろ・・

いつになったら来るんだよ!

とにかく気持ちを落ち着けろ!

気持ちを落ち着けろ。

息を浅くするんだ。

息を浅くするんだ。

しかし外の恐ろしい光景が脳裏に映し出される・・。

やめろ、パニックを起こすな。

落ち着け!

落ち着くんだ!

落ち着け!

落ち着くために・・照明をつける。

黄色い視界・・。

岩場だらけのゴツゴツとした洞窟の狭い内部が見える。

次の瞬間、背後から何者かに噛み付かれ黄色い視界は赤く染まった。

私の血液で赤く染まっているのだ。

グイグイと噛み付いた歯は肉の内部に奥のほうに喰い込んでゆく。

視界が鮮血で赤く染まり、濁った海水は洞窟の外からサメを呼び込んだ。

そして赤い海水の中で僕の視界は暗くなり、冷たくなった。

 

 

 

 
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