暗黒掌編工場の2013年3月のお題が「雛」ということでありまして。
 先月から続投のアラビアンナイト風なエスニックな雰囲気と摩訶不思議な味わいを
 漂わせながら、説教にもならないような寓話風な話をこさえました。
 というよりは打ち込みながら話を作っているような始末でございまして。
 なにげにこんな世界観が気に入っております。
 てなことで似非アラビアンナイト第二弾・・orz

  サウンドトラックはなんと音楽・・ではなく
 コーランの詠唱ということで、異国情緒をお楽しみください。
 https://www.youtube.com/watch?v=8gBnHKFi43Q







コーラン - 詩1から27日まで - 第2章


 1. アリフ・ラーム・ミーム。
2. それこそは,疑いの余地のない啓典である。その中には,主を畏れる者たちへの導きがあ­る。
3. 主を畏れる者たちとは,幽玄界を信じ,礼拝の務めを守り,またわれが授けたものを施す­者,
4. またわれがあなた(ムハンマド)に啓示したもの,またあなた以前(の預言者たち)に啓­示したものを信じ,また来世を堅く信じる者たちである。
5. これらの者は,主から導かれた者であり,また至上の幸福を成就する者である。
6. 本当に信仰を拒否する者は,あなたが警告しても,また警告しなくても同じで,(頑固に­)信じようとはしないであろう。
7. アッラーは,かれらの心も耳をも封じられる。また目には覆いをされ,重い懲罰を科せら­れよう。
8. また人びとの中,「わたしたちはアッラーを信じ,最後の(審判の)日を信じる。」と言­う者がある。だがかれらは信者ではない。
9. かれらはアッラーと信仰する者たちを,欺こうとしている。(実際は)自分を欺いている­のに過ぎないのだが,かれらは(それに)気付かない。
10. かれらの心には病が宿っている。アッラーは,その病を重くする。この偽りのために,か­れらには手痛い懲罰が下されよう。
11. 「あなたがたは,地上を退廃させてはならない。」と言われると,かれらは,「わたした­ちは矯正するだけのものである。」と言う。
12. いゃ,本当にかれらこそ,退廃を引き起こす者である。だがかれらは(それに)気付かな­い。
13. 「人びとが信仰するよう,信仰しなさい。」と言われると,かれらは,「わたしたちは愚­か者が信仰するように,信じられようか。」と言う。いや,本当にかれらこそ愚か者であ­る。だがかれらは,(それが)分らない。
14. かれらは信仰する者に会えば,「わたしたちは信仰する。」と言う。だがかれらが仲間の­悪魔〔シャイターン〕たちだけになると,「本当はあなたがたと一緒なのだ。わたしたち­は,只(信者たちを)愚弄していただけだ。」と言う。
15. だがアッラーは,このような連中を愚弄し,不信心のままに放置し,当てもなくさ迷わせ­られる。
16. これらの者は導きの代わりに,迷いを購った者で,かれらの取引は利益なく,また決して­正しく導かれるい。
17. かれらを譬えれば火を灯す者のようで,折角火が辺りを照らしたのに,アッラーはかれら­の光を取り上げられ,暗闇の中に取り残されたので,何二つ見ることが出来ない。
18. 聾唖で盲人なので,かれらは引き返すことも出来ないであろう。
19. また(譬えば)暗闇の中で雷鳴と稲妻を伴なう豪雨が天から降ってきたようなもので,落­雷の忍さから死を忍れて,(威らに)耳に指を差し込む。だがアッラーは,不信心者たち­を全部取り囲まれる。
20. 稲妻はほとんどかれらの視覚を奪わんばかりである。閃く度にその中で歩・を進めるが,­暗闇になれば立ち止まる。もしもアッラーが御望・ならば,かれらの聴覚も視覚も必ず取­り上げられる。本当にアッラーは,凡てのことに全能であられる。
21. 人びとよ。あなたがた,またあなたがた以前の者を創られた主に仕えなさい。恐らくあな­たがたは(悪魔に対し)その身を守るであろう。
22. (かれは)あなたがたのために大地を臥所とし,また大空を天蓋とされ,天から雨を降ら­せ,あなたがたのために糧として種々の果実を実らせられる方である。だからあなたがた­は(真理を)知った上は,(唯一なる)アッラーの外に同じような神があるなどと唱えて­はならない。
23. もしあなたがたが,わがしもべ(ムハンマド)に下した啓示を疑うならば,それに類する­1章〔スーラ〕でも作って・なさい。もしあなたがたが正しければ,アッラー以外のあな­たがたの証人を呼んで・なさい。
24. もしあなたがたが出来ないならば,いや,出来るはずもないのだが,それならば,人間と­石を燃料とする地獄の業火を恐れなさい。それは不信心者のために用意されている。

雛

 
  いまではもう知るものも少ないが、その昔この世は希望で溢れていた。
 希望って、なにか?だって?
 青い空に太陽が昇り、陽の光が燦々と大地に降り注ぎ、植物は生い茂り、
 ひとをはじめ生き物たちはまさに生き生きと暮らしていたものだ。
 狩りをし、畑を耕し、機を織ったものだ。
 夜が来れば朝が来る。
 辛い日が過ぎれば希望に満ちた明日が来る。
 明日になれば、よりよい一日が送れる。
 どんなにいまがどん底でも、明日が来ればなにかが変わる。
 そう思って人間は生きてきたものだ。
 それが当たり前と思っていた。

 
 
  砂漠の西からやってきた体中に入れ墨を入れた修験者がこの砂漠の街に辿りついた。
 修験者は東方の岩山に住む強大な火の鳥を探すために旅をしている、と云う。
 火の鳥をひと目見ればすべての病を治し、この灼熱の砂漠を緑の大地に変える
 強大な力を得ることができるだろう、と云う。
 街のふたりの長老たちと呪術師は修験者のその言葉を嘲り笑った。
 火の鳥はもう既にこの世界には存在しないのだ。
 もし火の鳥がいたならば、その火炎で出来た翼でこの世は焼き尽くされているだろう。
 もし火の鳥がいたならば、その火焔で覆われた翼で見た者の目を焼き潰してしまうだろう。

  修験者は一喝した。
 いにしえの先達はこう言い残しているではないか。
 火の鳥は死なないのだ。永遠に死ぬことはない、不死鳥なのだ、と。
 もしその姿を見ることができたなら。遠くからでもいい。
 もしその姿を見ることができたなら。
 その強靭なる生命力の一部を手に入れることができるのではないか。
 と。


  其れを聞くと長老たちはゴクリと喉を鳴らした。
 金も土地もある、地位もある長老たちは日々刻々と己の時間が少なくなっていることを
 自覚していた。もちろん其れは神の御意志であるので避けることなど出来はしない。
 しかし其れが死神が訪れるのが遅くなったら。そしてもしも訪れることを忘れてくれたなら
 それはそれで悦ばしいことではないか。
 さすれば多くの妻たちに今以上に子供を与えてやれるだろう。
 おおきな家族はこの土地では大いなる力をもたらす。
 多くの子を為し、子孫繁栄に励み努めることこそ神々の御意志である。
 しかし残された時間はこうしている間にも減っている。
 彼ら長老たちに不老不死の秘薬を作ることを乞われていた呪術師は相談を持ち掛けられ
 その後長老たちは会合を持ち、修験者とともに東方の岩山に旅することを決めた。

 
 
  砂漠を何日も旅をするため20頭の駱駝と10名の召使を従えて修験者と長老たち
 そして呪術師が旅に出た。灼熱の太陽が昇ると休み、西に日が傾きかけた頃起き上がり
 冷えきる砂漠をひたすら、ひたすらに東方を目指した。その途中で数頭の駱駝と数名の召使が
 砂漠の中で倒れ、また逃げ出したが、そんなことお構いなしで只ひたすらに東方を目指した。
 十四日目の昼頃おおきな河の畔の街に着いた。太古から王族の墳墓を守ってきた街の人たちは
 我々を歓迎してくれたが東方の岩山の火の鳥の話をすると笑いながら去って行った。

  ここで消耗した水や食糧を買い足した。
 長老たちはここで波斯帝国から流れ着いたという女奴隷やら羅馬帝国の異教徒の女どもを
 買いたたき毎晩、毎晩宴を開いていたが修験者の言葉に態度を変えた。
 色に呆けると火の鳥が感づいて逃げてしまいます。
 
 火の鳥は女の匂いに敏感なのです。

  そして更に、早く異教徒で戦士の国である越智阿皮亜を横断せねば、彼らの国が戦乱に
 巻き込まれかねないというので、長老たちはようやく重い腰をあげ河を渡り東方を目指した。
 その昔多くの異教徒たちが脱走した荒れた大地を超え更に砂漠を超えた。
 大地が割れた谷に作られた寺院に立ち寄るとそこにいた僧が火の鳥について教えてくれた。


 
 ”更に砂漠を超えた荒涼とした大地の上に突然岩山が聳え立つのが見えるだろう。
 その岩山には恐ろしいサラマンダーや巨大な吸血山猫もいる。
 多くのものはその頂に棲む火の鳥を見ることなく息絶えることになるだろう。
 しかし火の鳥をひと目見ることができたならば、我が僧院の大僧正のように奇跡的な長寿を
 得ることができよう”

  その大僧正は五百年も生きたそうだ。

  その話に長老たちは色めき立ち、修験者は興奮を隠さなかった。
 だが召使たちは余りの恐ろしい話に、その夜、金銀財宝を持って逃げ出してしまった。
 しかしここに至って修験者とふたりの長老たちはなにも恐れはしなかった。
 呪術師はここで置いていかれても困ってしまう。
 仕方なく着いていった。再び土漠の中をひたすらに東に向かった。
  いよいよ火の鳥の棲む岩山が目前に現れた。
 なんとも奇怪な形の岩が立ち並び、頂からは濛々と噴煙が湧き上がっていた。

 あの頂に火の鳥がいる。




 

  修験者とふたりの長老と呪術師は岩山を登り始めた。
 修験者が谷に棲む火を噴くサラマンダーをやり過ごすと、一気に歩を速めた。
 そして他のものをおいてけぼりにして、ひとりで岩山の頂を目指した。
 頂の手前の大きな洞窟の中から大きな鳴き声がしたので、恐る恐る入って行った。
 そこには弱弱しい姿のうずくまる火の鳥がいた。
 歳をとり火に勢いの無くなった火の鳥は、その姿を見た修験者を見下ろすと威嚇した。

 ”我が姿を見たものは、命を差し出すが常。覚悟は出来ていよう!”

  火の鳥のその言葉に修験者は恐れ慄き身が固まっていくのを感じた。
 だが想像していたより火の鳥が弱弱しく思えた。
 動こうとしないのは・・あぁ卵を抱えているのだな。修験者はそう考えた。

  修験者は火の鳥の前で地面に伏せて涙を浮かべ懇願した。
 ”私はあなたの御姿を拝見し、あなたの霊力を分けていただき、広くこの世の人間共に
 あなたのお力を知らしめむと思い遥か遥か西の海岸の国からやってまいりました。
 私の命はあなたの力の偉大さを広めるために使おうと思います。
 代わりに後から来るふたりの長老の命を差し上げます。”


  すると火の鳥は長老たちの命を奪いに飛び立った。
 修験者は火の鳥の飛び立った跡に残された大きなふたつの卵を見つけた。
 卵と云っても人の身の丈ほどのある大きなもので青白い殻に覆われていた。

  あんな弱弱しい火の鳥よりもこの卵の方が霊力が優れているに決まっておる。
 卵を喰ってしまえば、あの火の鳥よりも強力な力を得られるに決まっている!
 修験者はそう考えて卵のひとつの殻を割り卵の中身を飲み込んでしまった。
 するとどうだろう全身から力が漲り、体中から炎が噴き出した。
 火の鳥と同じ力が備わった!と修験者は有頂天になった。

  ふたりの長老の命を奪った火の鳥が巣に戻り、卵が壊されているのをみると怒り心頭。
 修験者に襲い掛かった。だが卵を産み疲れ果てている火の鳥など修験者の敵ではなかった。
 修験者は体中から火を放ち老いた火の鳥を焼き殺してしまった。
 これで、この世は私のものだ。私こそが神だ。不死身の神だ。
 修験者は岩山の頂で高らかに笑った。
 しかし喜びは長く続かなかった。
 もうひとつの卵の殻が割れて中から生まれた火の鳥の雛が、目の前にいた修験者を喰ってし まった。




 

”強欲で愚かな人間共め、この世を焼き尽くして灰にしてやる。
生きてゆくのが辛くなるほどの生き地獄を味あわせてやる。
おまえたちの最後のひとりになるまでつづく生き地獄を。”





 
   その火の鳥の雛は成長して岩山を飛び立った。
それ以後、世の中に戦乱と貧困を振りまいた。
青い空は見えなくなり、日の光さえも見えなくなった。
異教徒たちとの争いが続き、作物は育たなくなった。
商売も儲けを最大化するためという名目のもとで、仁義の無いものにしてしまった。
そのため、ひとびとの生活の上に潤いが無くなってしまった。
さらにその状態が長引くにつれひとびとに生きる希望が無くなってしまった。

それが神の御意志というのであれば、我々呪術師もその御意志に従わざるを得まい。








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