20130813
医学博士  冴羽詩織の手記 
 




 2013年8月の「新地」さんのキーワードは「忘れる」ということで
 忙しさにかまけて、またいろいろと想を改めることもあり「跡地5」で完結を目指していたんですが 
こりゃぁ当分終わらないねぇ〜♪
山の神さまサーガ・北神嶽奇譚 の一篇「医学博士 冴羽詩織の手記」
多重人格の女性のトラウマの原因を解明すべく、北神嶽周辺に向かった若き精神科医 冴羽詩織。
現在失踪中の彼女が遺したとされる手記が上村で発見された・・・。


関連リンク

医学博士  冴羽詩織の手記



 以下の文章は、北神嶽中腹の上村にて発見された現在失踪中の
 医学博士 冴羽詩織女史のものと思われる手記である。

 取り扱いについては警察署の同意を得て、女史の勤務先であり捜査協力を行なう
 佐々木原製薬株式会社が複写を持ち、両者合意の元、一切の公開を禁じられている。






 手記#1 1964年7月24日

 1964年7月24日

  東北本線とローカル線を乗り継ぎ駅を降りると既に夕暮れで下村に行くバスはなかった。
 駅前といっても雑貨屋が一軒あるだけで宿のひとつもあるわけでなく、雑貨屋の主人に
 宿を尋ねると、最終バスに乗って隣の駅まで行けば駅前に宿屋があると云われ、電話で
 予約をしてあげようといわれたので、おねがいした。
 夕陽が傾いたころ最終バスが走り出し暗い国道を走ること30分ほどで隣の駅に着いた。
 ここも駅前と云っても寂しいものでやはり雑貨屋があってその横に宿屋があった。
 私が宿屋の戸を開けて声を掛けると番頭の男は女の一人旅とみるや怪訝な顔をしたが
 気風のいい女将さんが笑顔で迎え入れてくれた。
 小さな民宿の、小さな風呂を浴び、心尽くしの料理を楽しむ。

  千恵子さんの病状に関わって数カ月になる。
 その間に二十歳になった彼女に現れた18の”人格”たちとのやり取りを整理してみる。

  千恵子さんは・・・いわゆる”主人格”であって。
 しかしこの数か月間で、実は私は彼女にあったことは・・実は3回ほどしかない。
 とても怯えている純粋なはたちの女性だ。
 裕福な良家で育った「お嬢様」だと思わせる楚々とした感じの”人格”で、知らされるまでは
 災害孤児であったとは思えなかった。
 彼女が過ごした孤児院での一年近くの記録を取り寄せてみても、彼女は事故以前の記憶を
 この時点で既に失っていたようで、ただ一人の生きの頃と云うことで取材を試みたマスコミを
 恐れ一時的に入院していたこともあったようだ。

  私が関わった数カ月のなかで私がいちばん会うことができたのは
 ”ジロさ”であり”ちえちゃん”だった。

  ”ジロさ”というのは中村に住む還暦過ぎのおじいさんで、そこで起きた疫病禍から患者たちを閉じ込めた
 豚舎に火を放った虐殺者であるが、人としては決して悪い人ではない。
 寧ろ彼をそこまで追い込んだ状況が彼もしくは他の人格・・例えば”呉作”さんらの話を聞いてみても・・
 あまりにひどい状況だったらしいことが窺える。
 やむにやまれずに手を下さずにいられなかった惨状を本人の人格は語った。

  だがこの本当にあったかのように語られる「事件」が、他の人格と共有しているあたりが千恵子さんのケースの
 特殊なところで、私が確認するだけでも”ジロさ”の他6人の人格がこの「事件」を共有している。
 特に「タロさ」という「ジロさ」の兄に当たる人格は弟を”虐殺者””人でなし”と貶し叫ぶ。
 加害者と被害者が千恵子さんの体の中で同居しているというのも特殊なケースではある。

  いちばん厄介なのは”ちえちゃん”だ。
 7歳のおんなのこである”ちえちゃん”の人格は”千恵子さん”の姉であることを主張し、
 妹を事あるごとに虐めるのである。こどものようなあどけない表情を浮かべながら、千恵子さんの皮膚を
 掻き毟ってみたり、枕に顔を押し付けてみたり・・まるで凶行としかいえない・・動きを千恵子さんの体で行なう。
 まるで幼子が人形で遊ぶように。残虐に。

  そのため千恵子さんの体を守るために睡眠剤を投与することにしたのは橋田センセイのグッドアイデアだとは思う。
 千恵子さんの体は次々に違う人格によって起こされてしまううえ、凶暴な”ちえちゃん”
 のような人格に傷付けられてしまう。

  ”ちえちゃん”は千恵子さんの腹違いのお姉さんで、千恵子さんに対しては「穢れた血の女」であるとか
 「臭い女」と罵り方が酷い。”ちえちゃん”が云うには千恵子さんは上村の男と”おかあさん”の間に生まれた子で
 ・・だから「穢れた血」であるという。つまりは千恵子さんは上村にいた、ということになる。
 千恵子さんが雪崩事故で救出されたのは上村周辺であったことは事実である。
 役所の戸籍係で調べればいいのだが役所自体が雪崩に遭って壊滅状態で
 事実上戸籍台帳自体がこの辺りでは曖昧な状態にある。
 雪崩事故がトラウマとなって・・、様々な人格に分裂したという仮説は可能だろう。

  いやそれならば更になぜ込み入った話が膨らむのだろう。
 疫病禍の話やら_。
 桃太郎の名を騙った虐殺少年の話やら_。
 子どもを攫って人形にしてしまう人形師の話やら_。

  北神嶽の地図を広げてみる。
 街道筋から入ってゆく下村の表記はあるが、それ以外の土地の表記はなく
 登山道など未整備なままであるようだ。

  女将が女のひとり旅を気遣ってか、部屋に来た。
 「おつかれでございましょ、あしたはどちらへ行かれるんですか?」
 私は民俗学の研究で北神嶽の下村から上村へと向かうつもりです、と答えると
 素っ気ない顔をした。
 「あすこはおなごひとりで行くところじゃありません、おやめなさいって。」
 と向き直った。
 「あのあたりは昔から気持ちの悪い話しか聞こえてきません。
 昔からあの山の奥に住む部落は・・鬼だとか。とにかくね変なところですよ。」
 と顔を顰める。
 「だから行くんですよ。鬼退治の話とかそういった話を探しているんです!
 そういった論文を書くんで・・・」と答えると。
 この宿の玄関脇の土産物コーナーにも「鬼まんじゅう」やら「鬼せんべい」が並んでいる。
 昔から「鬼」がこのあたりの名物ではある。
 このあたりは鬼の付く名産品も多いですよね、と微笑むと女将は明々白々な作り笑いを浮かべて
 「鬼なんていないと思っているんでしょ?でもねここいらにはね・・いるんですよ。
 新幹線が通って、日本でオリンピックをやるって時代なのにね。
 でもね、このあたりはまだまだ田舎のまま。
 今でも鬼が出るんですよ。」
 その表情の硬さには背筋が震えるほどの緊張感が漂っていた。
 しかしまさか鬼などと云うものが居るはずはない。
 余程酷い自然現象か、鬼畜まがいな所業を行なう人でも居るのだろうか。
 答えに困り、如何にも作ったような笑みを返す。

 「どうしても行くといわれるなら下村から中村まで知り合いに車で送るように伝えますよ。
 中村の泉さんの家に泊めてもらいなさいな。今夜中に電話で連絡しますから。」と云ってくれた。

 「でもね、夕暮れになったら家の中に入りなさいな。昼間でも何か異変を感じたらすぐに泉さんの家に戻りなさいな。」
 私が頷くと女将は部屋を出て行った。

  蒸し暑い夏の夜_。いまだ蝉の声がする。
 千恵子さんの中に存在する種々の”人格”の”話し”を整理する。
 整理と云っても其々、”人格”が話すことを抜き出し、歴史的な順序立て、地理的な順序立てを
 考慮して再構成するもので・・なんらの根拠のあるものではない。 
 
  恐らく平安時代に公家の御用地があり、其処の武官が女人をかどわかし川に沿って逃げた。
 逃げた先は北神嶽の恐らくは”奥村”というあたりで、其処にいた海を渡ってやってきたとされる
 ”鬼”に女人を殺害され、武官は命からがら逃げてきた。(武者の人格)
  
  *
  
  その後、武官は復讐の機会を伺い、武運を山の神に祈り、再度奥村に単身攻め込むが、帰っては来なかった。
 (武者の従者の人格)
  

  *
  

  時は流れ、奥村から一部の人たちが上村や中村に移り住む。
 彼らは手先が器用で、特に人形を作らせるととても上手にできたらしく傀儡子として
 人形劇の巡回興行を始めるようになった。(下村のおえい)
 評判は上々であったようだが、彼らの行くところ見物していた子供が居なくなるなどのことが
 起こり、起こった村人たちは上村まで彼らを追い詰めると、彼らの工房には子どもの体を
 切り刻んだような破片が散乱していた。という事件があった。(下村の茂作)
  
  *
 
  人形師が街道筋の街で子どもを浚い、上村の外れに住む子どもに恵まれなかった
 老夫婦に売りつけた。(下村のおえい)
  

  *
 
  その老夫婦は子どもを桃太郎として育て、鬼退治に行くように仕向けた。
 ”桃太郎”は老夫婦の云われるがまま、”鬼”として近隣の村人はたまた沿岸部まで
 殺戮を繰り返し、恐れられた。そして金銀財宝と共に村に戻ってきた桃太郎は
 老夫婦を殺害した。と云う事件があった。下手人は山の神さまのお告げと云った。
 (中村のおせん)
  
  *
  
  その一件あたりから上村と中村の間では耕作地と森林開拓事業の問題で揉め事が頻発した。
 そのため山の神さまのご神意を尋ねるべく祭祀を行なったところ、山の神さまのお告げがあり
 処女のいけにえを上村と中村で出すこととなった。しかしそのいけにえを奥村の男たちが
 浚っていってしまい、怒り心頭の上村と中村の村人たちは奥村に攻め入った。
 ところが既に孤立集落であった奥村の人たちは途轍もない力を発揮して襲ってきた。
 それ以来、再び奥村は孤立し他の村の人々は彼らを「鬼」と呼んだ。(中村のタロさ、ジロさ)
  
  *
  
  上村の人たちは奥村に通づる道全てに土塀を立て、彼らの侵入を防いだ。
  
  *
  
  しかし時代が変わるにつれ、奥村の人々は軟化し、若い女たちは上村、中村、下村に嫁ぐものも
 増えた。やがて奥村出という差別心も薄れていった。(中村のタロさ)
  
  *
  
  やがて平穏な時代を迎えたが、山の神さまへの信仰が疎かになっていったある年。
 突然、伝染病が猛威を振るっ・・









  手記#2 1964年7月25日

  朝食を食べると、午後になったら中村まで車で乗せてくれるといわれ
 お言葉に甘えて、午前中はまず図書館と役所に向かうことにした。
 図書館で12年前の雪崩災害の記事を調べた。
 全国紙では触れられていなかった内容も地元紙には詳細に書かれていることもあろうと
 細かく見ていると衝撃的な事実に直面した。
 
  雪崩事故に巻き込まれ身元の分かった方々の訃報の欄に「中村地区」の
 「榛名太郎」「榛名次郎」という名を見つけたのだ。
 それだけではなく「田中呉作」「田中きち」という「ちえちゃん」の両親と思われる名前をも発見したのだ。
 これはいったい何を意味するものなのか。
 「分裂した人格」とは「個の中で生成された人格」ではないのか?

  これではまるで・・千恵子さんに雪崩事故で無くなった方々の幽霊が乗り移っている、とでも・・。
 この科学万能の時代にそんな世迷言を思うほど暑い日だった。
 その足で地元の村役場に行き、雪崩事故の記録を調べた。
 すると役場の窓口の女性はもじもじとして、上役の人を呼んできた。
 12年前の雪崩事故の被害は役場にも及び戸籍等の帳票のほとんどが失われてしまった、ということらしい。
 
 「その後も雪害対策工事の土地収用とかあってですよぉ、山の上の方の村から降りてくる人たちもいたしねぇ。
 逆に相続で土地を手にして中村あたりに入った人たちもおってですよ。
 雪崩災害のあと、直ぐにね、住民基本台帳をね、作り変えたんですけどね。
 あれだけの災害でしたからぁ。なにせ上村は全滅、中村もほぼ全滅、ここの下村も半分ぐらいは
 埋まっちまったですからぁ。だから細かいところはわかりゃぁしませんよぅ。」

  しかし図書館の新聞記録で拾った名前が実在の人物であったかどうかの痕跡を探すには至らず
 宿に引き返した。昼食後、女将の口利きで中村の泉さん宅に向かう。
 車で1時間弱ほど。その半分以上は未舗装の山道を走ってゆくと川岸の道に出て中村に入った。
 雪害対策の地盤工事の後がいまだまだ新しく見えた。
 中村には20世帯ほどの民家があり、戦後下村から越していった泉さんのお宅に着いた。
 突然の訪問客にも御亭主をはじめご家族の方々は快く迎え入れてくれた。
 御亭主と奥様、息子さんご夫婦そして夏休みで分教場から帰ってきたお孫さんの征一君。

  「なにもないところですけどぉ、ゆっくりしていってくださいよぉ。」

  奥様の計らいで母屋の奥の離れを使わせていただくこととなった。
 ここでの私の身分はさすがに精神科の医者などというと、警戒されてしまうだろう、と思い
 民俗学者という肩書を用意していた。事実私はその分野で論文も書いているほどには勉強はしていたこともあり、
 この地方の「鬼」の伝説について調べている、といった表向きの姿を用意したのだ。
  小学生の征一君は私に興味を持ったようで、いろいろとこのあたりの話をしてくれる。
 雪崩事故の後、犠牲者の魂が集まるホトケザワの川原で子鬼が吠える、とか
 上村の土壁の中に人柱として埋められた男の死体が、壁が崩れて露わになっている場所、とか
 奥村の出の女は二十歳までに子供を産まないと、鬼の血が全身に回って鬼になってしまう、とか。

  千恵子さんの中のいくつかの「人格」の云うように奥村の女性に関しての噂というのは、実際にあるのだ。
 そして、雪深い冬の夜に気が違った女が尋ねてきて惨殺を繰り返す・・といった話も征一君の話からも
 この地域にある話であることが確認できた。

  夕飯は母屋にて頂く。
 茄子味噌炒めとか胡瓜の塩揉みとか久しぶりの素朴な料理に懐かしさを感じる。
 私がこのあたりの「鬼」とか「雪女」の伝説を取材している、というと、息子さん夫婦はにこやかに云われる。
 「まさかこの新幹線がはしる現代にさ、鬼なんていやしねぇよぉ」と。

  食後に征一君が雪女の話をしてくれたが、この辺りでは子供の頃にそういった話をされるらしい。
 「冬の吹雪の夜に子供を早く寝かしつけるのにね、雪女が入ってくるから、早く寝ちまいな、ってね。」
 それは度々、実在の人物の名前を取り入れて話をすることでリアリティ・・つまり現実味を以て子どもたちに語られた。
 例えばこの村に実在した「タロさ」であり「ジロさ」であり・・。
 つまりは、そういった怪異譚を繰り返し聞かされている間に千恵子さんの中では、恐ろしい話のあまりトラウマになって
 しまったのではないか。あまりに現実的な語り口で、実在の人物も登場する話し方で。
 そしてなにかを境にそのトラウマが復活してしまい、分裂した人格を産んでしまったのではないか。
 たしかに吹雪の晩に現れる雪女の話も複数の人格からも聞き及んだ話だ。
 さらにここの御主人の親戚の話・・つまり以前中村に住まわれて雪崩被害に遭われて亡くなられた方・・の話
 ということで伺うと伝染病が流行した際に隔離した建物が焼けた、ということも実際にあったようだ。
 こうした話のひとつひとつを蒐集し千恵子さんのなかの”人格”にぶつけてみることで事態が
 ブレイクスルーできるのではないか。

  再び昨夜同様、千恵子さんの”人格”の話したことと、ここにきて知り得たことを整理する。

  *

  伝染病が蔓延し、家畜が全滅した。やがて人間にも蔓延し、患者は隔離施設に集められた。
  (ジロさ、タロさ、呉作)

  *

  隔離施設から失火(ジロさ、呉作、おきち)

  *

  失火の原因はジロさによる放火(ジロさ、タロさ、おきち)

  *

  食糧が底をつき上村に無心に行くも、上村の住人達は高い土壁を作り入れてくれなかった。
  そればかりか、石を投げて追い払われた。ジロさは負傷した。(ジロさ、おきち)

*

  吹雪の晩に茂里が夜這いを掛けて来たのに恐れをなし茂里を殺害したおきちは上村にゆく
  (おきち、ちぇちゃん)

  *

  上村の連中に冷たくあしらわれ、ちぇちゃんは凍死してしまった。そのうえ監禁凌辱された。
  (おきち、上村の蓮三、ちぇちゃん)
  *

  ここにくるまで伝染病の時期が特定できなかったが、御主人の話では凡そ20年前であることがわかった。
  そして千恵子さんが救出された状況から千恵子さんは上村に住んでいたと思われる。

  以下は仮説の域を出ない。
 むしろ妄想の類である。
 吹雪の夜に娘のちえちゃんを抱いて上村に食料を無心に行ったおきちは、上村の男たちに凌辱され
 千恵子さんを産んだのではないか。
 そのため、ちえちゃんは千恵子さんの姉を名乗り毛嫌いする・・まるで幼女が妹に母親を取られたような気分なのだろう。
 そのまま大きくなったような。

  ちがう。
 ちえちゃんは千恵子さんに直接は会ってはいないはずだ。
 ちえちゃんは凍死したおきちの娘であるなら、なぜ千恵子さん存在を知っているのか。
 おきちの人格を経由して分裂した人格なのか。
  それとも。
 ちえちゃんの人格は。
 いや、ちえちゃんの怨念が憑依したというのか_。
 あの18以上の人格は・・この辺りの怨霊が千恵子さんに憑りついたというのか。

  それでは、なぜ・・怨霊たちは千恵子さんを殺そうとするのか。

  おきちは奥村の出の女、早くに中村の呉作さんの家に嫁いでちえちゃんを生した。
 その後、上村で凌辱され生まれた千恵子さんが生まれたのは凡そ20年前。
 符合してしまうではないか_。
 「奥村の出の女は二十歳までに子供を産まないと、鬼の血が全身に回って鬼になってしまう」
 怨霊たちは千恵子さんが「鬼」になることを警戒し、それを阻もうとしているというのか_。

  思考がネガティヴな方に傾いている。
 明日は御主人に伺った鬼の棲家とされる鍾乳洞の方に行ってみる予定だ。

  外から何やら悲鳴のようなものが聞こえ恐る恐る窓を開けると生垣の向こう・・
 隣りの家の離れから老婆の声が聞こえる・・それは悲鳴のような。
 窓を開けると、あちらからもこちらを見ている人影がある。
 奥には梁からつるされた老女が悲鳴を上げている・・。
 「どうしたんですか?」と尋ねると、色町あたりのヤリ手女のような大きな丸い髪型の・・・
 まるで鶏ガラのような化粧の濃い気の強そうな老女が前に立ちはだかった。

  まるで夜だというのに爛々と輝いた獣のような目つきでこちらを見据えて。
 その瞬間、夏の夜の蒸し暑さが凍り付くように一気に冷え込んだように感じた。

 「悪いもん見ちまったと思って、忘れちまいな!」

  そう言い放つと雨戸をピシャッと閉めた。








 


 いただいたご感想等
2013-08-13 23:23:
椿 まこ
すべての謎が解けてきましたね
あれ 鶏ガラのような 老女・・・

2013-08-13 23:56:
平岩隆
椿まこさま
ありがとうございます。
いろいろアイデアを盛り込んでみたのですが、まだまだ終わりませぬ・・・。

2013-08-19 20:15:04
物語に勢いがあって心地いい。
見習いたいくらいです(泣)
諸星大二郎氏の作品を思わせる雰囲気が、
非常に心地よいです。
これからどうなるのか――ひっそり応援させてもらいます。

2013-08-19 21:12:26
平岩隆
尾咲 枕さま
ありがとうございます。
本当は「跡地5」はここからはじまって、更なる驚愕のエンディングを迎えるはずだったのですがw
あんまりに長編になり過ぎるし、せっかくの「掌編群による世界観構築」の野望が崩れるのも
嫌だったので・・・って、ウソです。

山口県周南市の事件が本当に衝撃を受けたのですよ。
だから途中でメインストリームの話から横道にそれたサイドストーリー的な「跡地5」への
橋渡しが必要となりました。そこで苦肉の策の本作でございます_orz
見習われる部分など無い、無い_orz

 
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