Martin Lubenov ork.Dui Droma-Dui droma a me corkoro アル シャルキヤの土漠地帯に小さな谷がある。 谷には集落があり小さな井戸を中心に数件の家が立ち並び、小さな店もある。 ここ数年、東洋人たちがやってきて巨大な黒い板を並べて谷の大半を占領してしまった。 なんでも陽の光で電気を起こすとか云っていたが、そんなことは俺達の与り知ったことではない。 実際なんの恩恵にも浴しているわけでもない。 ただ東洋人たちは涼しい顔をして部屋に閉じこもっていて、毎日タンクローリーで水を運んできている。以前はキリスト教徒がコーン畑を作って・・その時は俺達の井戸の水を勝手に使って・・・ だから奴らは失敗した。アッラーの思し召しではなかったのだ。今度の東洋人たちもいずれ失敗して引き上げるさ。そうでなければ俺達が引き上げねばならない。井戸の水が枯れかかっているから。 小さな店の老いたあるじはブツブツとつぶやく。 店を開けていても客なぞ滅多に来るわけではない。 東洋人が来てからは客足も更に遠のいた。 そんなときに変わった顔つきの客が現れた。 真っ赤に日焼けして赤毛の髭だらけの大男だった。 もう何日も呑まず食わずで、土漠を超えてきたようだった 足を引きづり、店に入るとカウンターにだらしなく座り込んで水を要求した。 そして酒。 |
「そしたらね。あの女は_。 一瞬にして男たちの喉を掻っ切ってさ、俺は落ちていた自動小銃で応戦したんだ。 俺だって元はロシアの軍人だ銃の扱いぐらい慣れてるさ。 だが・・あの女の方が腕前は上だった。 武装した男どもをものの数分で血祭りにあげちまったんだから。」 ユーリは強い酒が体に沁み渡ってゆくのを感じた。 すると自分でも意外なほど饒舌になった。 「それから俺達は奴らの持っていた食料と酒で腹を満たして、星空の下で抱き合った。 東洋人の女を抱いたのは初めてだったが、激しい女だった。 あんなの凄いのは初めてだった。天空がグルグル回るほどのセックスだった。満天の星空の下で、だが彼女の背中の蝶の入れ墨が白くボンヤリと光ったんだ。 東洋人ってのは凄いよな。いちいち細工が細かい。 なんどもなんども求め、求めては果て何度も何度も。 あぁ・・なんどもな。 めくるめく快感ってやつさ。 で俺の頭の中は真っ白さ。 そして朝まで。地獄の炎のような太陽が昇るまで抱き合っていた。 で、聴いてみたんだな。 あんたどこの国のエージェントだぃ?ってさ。 そしたら・・フフフって笑うだけさ。 だって機内の北朝鮮の工作員殺したのおまえさんだろ?ってさ。 そしたら・・どうせ私らふたりとももう既に<死んでる>でしょうから教えてあげるわって。 北朝鮮じゃなくて日本人だったらしいんだテラダってのが・・ よど号乗っ取り犯が一本釣りした輩で、中東で活動していたらしいんだが余り派手に行動するんで日本政府が疎ましく思って暗殺を依頼してきた・・って云うんだ。 本当だかウソだか知らんが・・あんな国でも暗殺者を雇うんだぜ、ありゃぁプロだ。 それも腕利きのね。 どうせサエコ・スズキなんて名前も嘘っぱちだろ。 けど、あの女は・・最高だった。」 店のあるじは、他愛のない話として聴いていたが合いの手を入れた。 「で、その女どこにいるんだぃ?その・・最高な女ってのは」 「目が覚めたら消えてた。」 ユーリは酒を煽った。 「旦那、幻でも見てたんじゃないのかぃ?」 あるじは呟いた。 すると店の奥にいたムスリムの男たちがユーリを取り囲んだ。 「我々のキエフの友人たちがあんたに大変な興味を持っているんだがね。」 男たちはユーリにピストルを突きつけた。 了 |