Akira Wada - Humming Frogs (1983) イリーアの部屋からホルヘ・エスコヴェードとその息子たちの悲鳴が聞こえた。 それに合わせて女が右手を握った。 反撃開始のサインだ。 手筈通りダビと数人はリン鉱山に向かった。 ジャングルの中の暗闇を車を走らせる。 こんなジャングルの中を逃げるやつはいない・・。 あぁその通りさ、このジャングルには何が潜んでいるか知れない。 だからといって警備が手薄なのは問題があるんじゃないか? ダビはそんなことを思いながら車を飛ばした。 ものの数分でリン鉱山の施設に到着するとダイナマイトを手当たり次第に放り込んだ。 静かなジャングルに潜む虫や動物たちには悪いが景気よくドンパチさせてもらうぜ・・。 フランツ・サンチェスは二階の無線室に向かった。 「こちらホワイトスネイク、爆撃要請、位置は今からリン鉱山を爆破する。 それを目印に一帯を爆撃してくれ!」 雑音交じりのスピーカーに耳を傾けながら再びマイクを握る。 「こちらホワイトスネイク、こちらホワイトスネイク・・応答してくれ!」 ”ホワイトスネイク、こちらブラックボア 了解した、爆破を待つ。” 武器を手に取った囚人たちはイリーアの部屋になだれ込みエスコヴェード一家に襲い掛かった。 「国家元首」ホルヘ・エスコヴェードは跪き命乞いを始めたが、囚人とされた原住民の怒りが収まるものではなく ふたりの息子と共に射殺された。 女は中庭に無造作にダイナマイトをばらまき、SSの眠る地下室にも放り込んだ。 イリーアの部屋で銃声が響き渡り傭兵たちが目を覚まし臨戦態勢をとろうと起き上がりざまに 女は火の付いたダイナマイトを放り込んだ。最初の爆発が起こり、次にばらまいたダイナマイトが共鳴爆破を起こし 石を敷き並べた中庭やコンクリート造りの建物が崩れ始めた。 傭兵たちは悲鳴と共に瓦礫に埋もれた。 耳をつんざくような爆音がジャングルに響いた。 夜空に鳥たちが舞い上がり、獣たちが身の危険を感じ一斉に逃げ始めた。 ダビは要塞の方を観て、あの女・・やりやがったな・・とほくそ笑む。 こっちもやるぜ! ダビは導火線に火を点けた。 灯りひとつないジャングルの暗闇が広がる。 そのなかに青白く燃え上がる一画を発見したパイロットは、その青白い光の周辺をなんどか旋回し また手を振るダビの姿を発見した。そこが爆撃ポイントであることを確認し本部に連絡した。 ”ナイトサーチより、ナイトヴィジョンへ爆撃ポイントを確認” ほっとしたダビは仲間たちに対岸まで泳ぐように指示した。 アトは泳ぐだけだ。 痘痕面のダビは炎色反応で青白く燃え上がるリン精製施設をを見上げた・・。 そのとき何者かにいきなり襲われた。 なんの気配もなく近寄ってきた相手に。 対抗するすべもなく、ダビは自分の突然やってきた死期を感じた。 泣く子も黙る海兵隊に籍を置いたこともあるこの俺が・・。 手も足も出せない・・。一気に全身を締め上げられ・・。 呼吸が止まる・・。 もがいてみてもその強大な力はやむことなく・・。 いやむしろ底知れぬ食欲はさらに勢いよく増していくように・・。 |
瓦礫の山となった要塞ではフランツ・サンチェスが「囚人」たちに対岸に逃げるように促した。 「ここはもうすぐ爆撃される!」 女にそう告げ、川へと向かうが、背後より銃声がして・・ フランツ・サンチェスは視界が一瞬真っ白になった。 そして全てがまるでストップ・モーションの画像のように見えた。 右腿に激痛を感じる・・。 瓦礫の山・・。 燃え上がるジャングル・・。 倒れこみ背後を振りかえる・・。 其処に立っていたのは・・。 鰐皮のブーツ・・。 その左手には鞭・・。 右手には銃が握られている・・。 鰐皮のボンデージファッションを纏ったイリーア・・。 「レディー・ローズ!まさか逃げ出すわけじゃないでしょうね!」 イリーアは大声で叫んだ。 女は黙って振り返る。 「私は・・逃げない。 なぜならターゲットであるおまえをまだ始末していないのだから。」 「いい度胸だ。」 イリーアは銃を捨てる。 「おまえとはこんな無粋なモノで勝負したくない。素手でかかってきな!」 女は頷き、二挺の拳銃を捨てる。 すると突然イリーアは女に向かって突進して掴みかかろうとするが、女は軽く身を躱し肘でイリーアの顔面を突く。 一瞬視覚を失ったイリーアは頭を振りながら爪を立てて再び女に襲い掛かる。 女は身を翻すが軍服の背中が刃物で切られたように裂ける。そして女の背中が露わとなり白い薔薇の入れ墨が現れる。 イリーアは爪に鉛を塗って刃物のように磨いだのだ・・。 「その白い薔薇を赤く染めてやるわ!」 大柄なイリーアは腕を振り回して襲い掛かるが、女は身を柔軟に躱す。 だがイリーアは女を池の鉄柵まで追い詰めた。 鉄柵の中には爆破に驚いて暴れている大ワニがいる・・。 さぁ餌の時間だよ! イリーアは女の腕を掴み鉄柵に女の華奢な体を打ち当てた。 槍状の鉄柵の先端の返しが軍服に引っ掛かり音を立てて破れる。 破れた軍服を脱ぎ捨て、形の良い乳房が露わとなる。 イリーアは渾身の力を込めて突進する。 女はしなやかに足を伸ばしてイリーアの顎を蹴り上げた。 宙を舞うイリーアの身体は鉄柵を超えて池の中に落ちた。 すると巨大なクロカイマンは大口を開けてイリーアの身体に喰らいついた。 イリーアの絶叫と共に豊満な乳房が血に染まり、腕を喰いちぎられ、はらわたが水に浮いた。 その鋭い歯と強靭な顎の力で肉を断ち、骨を軋ませて平らげた。 だが興奮したワニの食欲は止まる事を知らずついに鉄柵を破壊し瓦礫の山に這い出た。 女を次の餌と選んだのか、ワニはその形態からは思いもよらないようなスピードでバランスを崩しながらも女に襲い掛かった。瓦礫の山をかき分けるように進むワニ。 女は瓦礫の山の上を逃げるが、高い塀際に追い詰められた。 フランツ・サンチェスは女を助けようと自動小銃を構えるが・・。 女を追い詰めたワニは進むのを止めた。 ワニは身を低くし警戒する様な行動を始めた。 女の前に頭上から粘液に塗れたダビの死体が落ちてきたのだ。 女は恐る恐る頭上を見上げると・・。 巨大ワニにも増して巨大な蛇・・アナコンダが巨大な口を開けている・・。 呑込んだダビの身体を吐き出したらしい。 シィィィィィーッ! シィィィィィーッ! シィィィィィーッ! 大蛇は大ワニを威嚇しているようだ。 大ワニも大きな頭を持ち上げて大きな長い口を開けた。 カァァァァァー! 女は絶体絶命な状況を冷静に受け止めているのか、それとも怯えきっているのか フランツ・サンチェスには判断がつかなかったが、声でも出そうものなら二匹の野獣はこちらに向かってくるかもしれない。 助けようとしてもなんの術もない。 |
張りつめた空気が最高潮に達したとき・・ 高い塀の上の大蛇が巨大ワニに飛びかかった。 大ワニの身体に大蛇が絡みつき、暴れまわる蛇の尾に大ワニの刃が食らいついた。 二匹の巨獣は瓦礫を崩しながら暴れまわった。 その隙に女は瓦礫の山を塀づたいに逃げた。 女は負傷したフランツ・サンチェスの身体を持ち上げ、ふたりは川へと走る。 上空から米軍の攻撃ヘリの強いライトが当てられた。 ”早く逃げろ、攻撃を開始する!” 警告するや否や、攻撃ヘリは爆撃を開始した。 炎に包まれる要塞・・。 戦闘本能に従い組み合ったままの巨獣・・。 燃えるジャングル・・。 一帯は炎に包まれた。 |