和田アキラ TOMORROW'S PROMISE 地獄の業火に焼かれた土地でフランツ・サンチェスは海兵隊によって助けられた。 すでに火は鎮火していたが、ガソリンの焼けるような鼻を突く臭いは残っていた。 瓦礫の山にはこの世のものとは思えない大ワニと大蛇の黒焦げ死体が横たわっていた。 海兵隊は喜んで記念写真を撮っていた。 朝もやの中のそんな光景を不思議に思えた。 ほんの数時間前のことだった筈なのにもう大昔のように思えた。 なにかほっとした・・安堵感が心を支配している。 それが先程うたれたモルヒネのせいであることは容易に窺えた。 傷の手当てをしてくれた海兵隊員はまだ若い男で、はにかんで見せた。 「大丈夫ですよ、弾は貫通している。気絶している間に消毒しましたから。 応急処置は終わりです。アトは文明世界に戻って、ちゃんとした医者に診てもらってください。」 フランツ・サンチェスは尋ねた。 「あ・・あの女性は・・ほら・・東洋系で黒髪の・・背中に白い薔薇の入れ墨のある・・」 「いやぁ・・居ないですねぇ・・もっともバラの入れ墨の女性ならたくさんいますけどね。 さ、川向うのキャンプでヘリに乗ってください。」 フランツ・サンチェスはゴムボートに乗せられ川向うに暫定的に作られたキャンプに運ばれた。 そこには保護された原住民たちがいた。 水と食料を与えられ必要な者には治療を施していた。 フランツ・サンチェスは原住民の女たちが皆、背中にバラの入れ墨をしていることに驚いた。 色はさまざまで中には稚拙なものも多いがバラの花であることに違いはなかった。 |
そしてあの女がくちづさんでいたあの歌を、皆がくちづさんでいるのだ。 「なんて・・歌なんだぃ?」 通訳をしていた海兵隊員に尋ねた。 「この辺の地域の葬式の歌です。 部族の戦士が死んだときに唄われる歌です。 なんか伝説と絡んでいるらしくてね。詳しくは知りませんけど。 ・・我らの戦士が死んだ。 ・・哀しみと憎しみを乗り越えろ。 ・・薔薇の女戦士が甦り ・・悪魔をすべて焼き払ってくれる。 まぁ・・そんな歌です。 それはそうと基地でDEAのお偉方があなたをお待ちだそうで、ヘリに乗ってください。」 フランツ・サンチェスは狐につままれたような変な気がした。 そしてもう一度尋ねた。 「なぁ・・君は・・LADY ROSEに合わなかったか_?」 すると海兵隊員は変な顔をした 「なんですか?酒の名前かなんかですか?」 フランツ・サンチェスは首を振り、ありがとう、と伝えると迎えのヘリに乗り込んだ。 ・・我らの戦士が死んだ。 ・・哀しみと憎しみを乗り越えろ。 ・・薔薇の女戦士が甦り ・・悪魔をすべて焼き払ってくれる。 思わず知らない言葉のこの唄をくちづさんだ。 |