Takashi Hiraiwa Short Story 01
「アンドロメダ...」
思わず膝が崩れて、掌を床に叩きつけた。 腰砕けとはこういうことなのか。 額を床に落として。 神に祈る。 神など今迄、否定していたのに。 何を祈る? 情け無いほどに、保身。 贖罪? なにをいまさら。 閉じた瞼には涙が溢れた。 眼を開けたくないのに。 このまま暗黒のまま、暗闇が続いてくれれば。 とすら思えたが、次に湧きあがった感情は。 笑いだった。 責任が私にあるわけではない。 起こってしまったことが あまりに大きすぎて。 私のせいではない。 無責任な、責任逃れの照れ笑いが 事の大きさを想像するにつけ、 顔面の筋肉が引き攣るほど笑った。 最終的には半狂乱になるほど笑った。 こうなれば笑うしかないじゃないか。 このまま狂い死にしてしまいたい。 これほどの猛威のある微生物は・・初めてだ。 まるで意思を持ったような・・ 意思? 「彼ら」は意思を持っていたのか! 「彼ら」は意思を持って、カプセルに入り込み 地球にやってきたというのか。 だが、いったいなんのために? そんなことは、ともかく・・目の前で 防護服を着た私以外の人間が倒れ始め ものの数秒で、もがき苦しみながら死んでゆく。 既に建物の外部にも広がってしまったようだ。 事故が発生し、火災が起こり、人々は尚、次々に死んでゆく。 微生物フィルターを通り越すほど微細な「彼ら」の 猛威はおさまることをしないだろう。 広がるだけ広がり、人の死骸でこの地球を覆いつくすのだろう。 この恐ろしいまでの殺傷能力を秘めた 眼にすら見えない「彼ら」によって。 防護服の接合部が腐食して溶け始めた。 もうすぐ私も、もがき苦しみながら。 私が、カプセルを開けてしまったばかりに。 小惑星探査機「はやぶさ」が小惑星イトカワから持ち帰ったあのカプセルを。 |