新地さんの2014年7月のお題が「故郷」ということで、実は今とりかかっている「跡地SIX」にも関わってくるのですがね。ま、そりゃぁ別な話で。さて新地さん用にはアレだけ自分では書かないと決めていたのに、禁断の続編を書いてしまいました_orz 絶海の孤島で巨大な悪に虐げられたものたちを救うため, 船を降り立ったのは天使か悪魔の使いか_。 ゴルゴ13の1篇のように最後だけゴルゴの背中が見える・・みたいなのもいいんだが なんかもちっと出したいよなぁ、と。 鈴木則文監督に捧ぐ(をひ!)シリーズ第2弾! ファッショナブルに、格好良く、シンプルでエログロなプログラム・ピクチャー感覚でいきましょうや。 あ、今回は夏休みを狙い児童文学テイストです(ウソ) サウンドトラックは先日亡くなられた私メの”音楽の父”松岡直也の代表的な一曲。 LD用のこのテイクが最強ですね。ギターの和田アキラが余裕の高度テクニックかましてくれてます。 |
ここ数日シケ続きだったが今日は曇ってはいたが波は穏やかだった。 定期連絡船もようやく湾内に入ることが出来たようで、汽笛が木魂する。 物資が底をついていたこともあり、大人も子供も男たちも女たちもこぞって港に集まった。 食糧・生活物資・飲料水・・。そして医療品。 たった住民数百人の南海の小島に似つかわしくないほどの量のコンテナが運び込まれている。 黄色い顔した東洋人たちは丘の上に病院を作ってくれた。 沢山の女を愛した男や男同士愛し合ったりすると罹る病気・・の治療をタダで行なうと云って皆が運ばれた。 だが帰ってくるものはなかった。 そのうち定期連絡船の他にも患者を運んでくる船が港に入るようになって、島の長老たちは何度も話し合った。 そして東洋人たちに掛け合うべく丘の上の病院に向かった。 そこで観たものはビニール袋に覆われた島の人間たちの痩せ細った遺体だった。 折角丘の上に病院を建ててくれたのだ。以前よりは病気も減った。 それは個人の寿命や医療の失敗もあったのだろう、そのことについてなにも云わなかった。 長老たちは島の人間は死んだら土に戻すのだ、と遺体の返還を要求した。 この島の外の人間の遺体は元に戻すことを要求した。 生まれた場所の土に帰るべきだ、と。 だが東洋人たちは「研究用」と呼び、それを拒んだ。 病院での「研究」が成果に結びつかず、やがて病院は島の外から傭兵たちを雇い入れ 島の人間を病院に近づけなくした。 ようやく、わかったのだ。 島の人間は「研究用」に使われていることを。 新薬の実験台にされていることを。 この島では北斜面で獲れるケシの実ぐらいしか仕事が無い。 だが働き手が少なくなっているのに、プランテーションはおおきくなっている。 「研究用」の遺体が島の外・・何処に持って行かれているのか_? 長老たちは話し合いひとつの結論に達した_。 アレは病院なんかじゃない。 利くか利かないかわからない新薬の実験場だ。 そして、ケシの実を悪いことに使っているに違いない。 遺体の中身を繰り抜いてケシの粉を作って島の外に売っているようだ。 その工場があの・・病院だ。 いきり立ち病院の襲撃を考えたが、コーポレーションという軍隊のまえに鍬や鋤ぐらいしか 使えない島の男たちは結局は泣き寝入りするしかなかった。 それが2年前だ。 2年前のあの日・・この島にもインターネットが繋がるようになり、僕等は夢中になった。 電話も碌に通じない絶海の孤島で。病院が海底ケーブルとやらを引いてくれた御蔭で。 僕等のガス抜きでもあったのだろう・・どうせお前たちに使えるものじゃないさ。 パソコンと共にバーや食堂にタダで設置した。 こんなに面白いものはない。 この島のことしか知らなかった僕らに世界中の情報を教えてくれた。 そして病院のマークを検索すると病院の母体が世界的な製薬会社であることを。 僕等は哀しくなった。 だがインターネットは便利なものだった。 僕等の窮状を訴える場もあったからだ。 島のこと。 病院のこと。 死体のこと。 そして僕らなりの申し出を書いて・・・だがそんなこと書いても誰も気に留めてくれるわけがなかった。 世の中、オリンピックやサッカーには夢中になるだろう。 中東の産油国のからんだ紛争には興味があるだろう。 だが僕らの島のことなんて誰も気に留めてくれやしない。 そのまま数カ月後になって1通だけ返事が来たのだ。 だが、それっきり。 |
定期船には珍しいお客さんも乗っていた。 普段は観光客なんて来ないのに・・しかも女のひとり旅・・。 黒いドレスに長い髪の白い顔をした東洋人・・きれいな人だった。 港に着くと僕らは大きい黒いトランクを運ぶからと、声を掛けると笑った。 倉庫街を抜けた石畳の通りのホテルまで運んだ。 「どこにいくの?」 「なにしにきたの?」 僕等は物珍しさから女の人に質問したが、僕等のことが面倒臭くなったのか チェックインして出てこなかった。 その夜、病院の方で大爆発が起こり大人たちは消火に向かったが火の勢いは鎮まることなく 結局は焼き尽くすまで待つことになった。 子どもたちは外に出てはいけない、と云われたので港から丘の上を眺めた。 何度も何度も爆発し、火薬や薬品の臭いが島中に漂った。 その光景の中闇に紛れるように、全身黒づくめのあの女の人が壁づたいに歩いていた。 僕が声を掛けると女の人は怖いほどの眼差しを向けた。 「どうしたんですか_?」 すると女の人は人差し指を口の前で立てた。 「子どもは寝る時間だよ」 翌朝になっても病院は延焼を続けていた。 殆どの大人たちは消火に向かった。 西風を受けて火が住宅地に迫ったからだ。 相変わらず港の辺りにいるしかなかった僕らは定期連絡船の出航準備を眺めていた。 ホテルから出てきた白い顔の東洋人の女のひとは黒い大きなトランクではなく ちいさな赤いリュックサックだけを担いで。 黒いタンクトップにジーパン・・見違えるほどにスポーティーになっていた。 そのとき合点がいったのだ。 僕の描いた掲示板の文章を思い出した_。 ”僕たちの島を助けてください。 僕たちの故郷を救ってください。 悪い奴らに荒らされています。 悪い製薬会社の実験場にされています。 死体を使って麻薬を運んでいます。 奴らをやっつけてください。 御礼はします。 長老が島の皆から集めた10万ドル...USドルです・・” 数カ月後に届いたメールにはこう書いてあった。 ”o.k. LR” 僕は大人たちの話の中で聴いた伝説の女暗殺者の話を思い出した。 東洋系の女性で、年恰好で云えば20代後半から30代前半。 黒髪に白い肌。黒い瞳。背中には白く鈍く光る薔薇の入れ墨を持つ女。 _LADY ROSE 誰もその女の顔を知らない。 知ったら最後消されるのだから。 定期連絡船に乗り込もうとした彼女に声を掛けた。 「ありがとう、あなたがLADY ROSEですね!」 すると彼女は僕の方を向いてくれた。 「世の中には知ってはいけないものもあるのよ、坊や。」 僕は意味が解らなかった。 「僕はあなたのことがもっと知りたい!ありがとう!大好きだ!」 僕は心の中に浮かんだ言葉を全部云った。 それを聴くでもなく彼女は定期連絡船に乗り込んだ。 汽笛が鳴り、船が桟橋を離れてゆく・・。 僕は桟橋の先で手を振った。 「ありがとう!」 「さようなら!」 「LADY ROSE!」 そう叫んだ瞬間、船の方から銃声が聞こえ僕の眉間に銃弾が撃ち込まれた。 |
いただいた感想等 |
2014-07-01 07:46: まんぼう ハードボイルドですねえ。 テーマの「故郷」と見事に絡まっていますね。 最後は想像通りでした(^^) 2014-07-01 17:54:23 平岩隆 まんぼうさま ありがとうございます。 えへへ予定調和なプログラム・ピクチャー風でございます_orz 2014-07-01 20:33:13 ワイナップル おもしろ!!笑 >「世の中には知ってはいけないものもあるのよ、坊や。」 言われてぇ!!笑 2014-07-01 22:19:04 青猫 読ませて頂きました。 最後は、残念というか、仕方がないのか~とも思いつつ。 かっこいいですね! 次はどこに現れるのか。 楽しみです。 2014-07-02 05:51:02 平岩隆 ワイナップルさま ありがとうございます。 >「世の中には知ってはいけないものもあるのよ、坊や。」 言われてぇ!!笑 言われたら・・危ないと思います・・・w 2014-07-02 05:56:01 平岩隆 青猫さま ありがとうございます。 不思議とLADY ROSE書いているときは、可也気楽でありまして なにかメッセージを伝えたいとか、特別いい文章を書きたいとか 全然考えずにノリノリで書いている自分が・・面白くてですねw なんかクセになりそうですw 2014-07-09 16:03:38 う~ん、確かに子ども向けではありませんね。(いい意味で) まさに彼女は女ゴルゴ13!(←ストレートすぎますね) 名前と顔を知ったら命はない、究極の魔性の女・・・でしょうか。 最後に、「世の中には知ってはいけないものもあるのよ、坊や。」、これこそ「殺し文句」ですね。 長文失礼いたしました。 2014-07-11 00:05:38 平岩隆 あめりさま ありがとうございます。 既定路線を大きく踏み外さないように気を付けます。 2014-07-17 01:19:42 MIGU-28 「午後の水平線」と共に読ませて頂きました♪ (・・)♪ いや~、面白かったです~♪ 「わかれの桟橋」。 読んだワタクシの脳髄にもビシッと決まって・・・ やられました・・・・♪ 2014-07-17 21:55:05 平岩隆 MIGUさま ありがとうございます。 松岡直也氏のアルバムは恐らく全て持っていてライブにも数限りなく通ったクチであるのですが、追悼の意味を込めて一作書きたいな、とか思っていたのです。 で例によってサントラだけ先に決まってしまって。 さてこの文章にどの音楽を付けるか悩んだときに先の選集に漏れてしまった 「午後の水平線」が・・意外にあってるかもね、そーかもね。てなノリでございまして。 名曲を冒瀆してしまいました。_orz 2014-07-24 01:37:53 オオサカタロウ ラストのほろ苦さが、心に残ります。 一見冷酷なようで、少年に生き残るチャンスを何度かあげてますよね、彼女。 自分の事を語るような場面も(中々ありえないシチュエーションですが)、見てみたいと思いました。 2014-07-24 10:15:16 平岩隆 オオサカタロウさま ありがとうございます。 基本的には何も考えずに「東映二本立てプログラム・ピクチャーのような」 肩も凝らずに跡になにも残らないような、ただ”カッコぇぇ・・”と云っていただければ嬉しい。 という「さそり」とか「ワニ分署」とか「0課の女」とか、もうね気分は「篠原とおる」で書いてますw ”80-90年代のフュージョン”を纏った”エログロナンセンス”で”男心にぐさりと刺さるハイヒール” なセンスを共有していただけるなら、オオサカはんにも”LR”を書いていただきたい♪ 2014-07-26 01:45:54 オオサカタロウ 私なりに書いてみました。 http://www.dnovels.net/novels/detail/13032 フュージョンでエログロナンセンスにハイヒールなはずが、いざ書きあがると、「サザンロックで重火器で麻薬戦争」になってしまいました。 ひとつ目なので、どうかお手柔らかに見てやってくださいませ。 2014-12-28 14:10:58 那由他 こんにちは。 読ませていただきました。 ラストにびっくりです。 「世の中には知ってはいけないものもあるのよ、坊や。」 カッコいいセリフですね。 おもしろかったです。 2014-12-28 22:47:09 平岩隆 那由他さま!ありがとうございます! とにかくこのころは掌編であることを意識して書いておりまして 夏場だったので南の島を舞台にいたしました。 具体的なイメージとしては昔訪れたことのあるプーケットとかサムイ島とか マレーシアのペナン島とかのイメージです。 兎に角、カッコよく・・を意識してましたが・・・_orz わざとらしいですよねw |