しかし歩を進めれば進めるほど目的の地は遠ざかっていくようだった。

何年も、何年も、そして何年も歩んだ。

たしかに視界はモノトーンの世界から

オレンジ色の光をうけて反射するような

まるで火星の地表面のような赤い土漠地帯に変わった。

以前よりは光は大きく見え、しかも暖かさを感じるようになった。

だが、光までは。

 

まだまだ遠く。

それに近づくためには、目の前の木の生えていない

荒涼とした大山脈を越えねばならなかった。

しかし、躊躇していたのでは始まらない。

すべては、この一歩に始まる。

そう信じていた。

 

何日も、何日も、何日もかけて。

峰のひとつに登りきった。

だが。

そこから見えたのは、気の遠くなるほどの尾根道だった。

 

しかし、歩を進めねばならない。

切り立った岩の突き出た険しい道を、歩み始めた。

何日も。何日も。何日も。

そんなある日、浮石に足をとられ、尾根から急斜面を

滑落してしまった。

 

意識を失い、気がつくと稜線は遥か上のほうに見えていて。

足は骨折してしまった。

もう、歩くことすら出来ない。

絶望のなかで、涙が込み上げてきた。

 

しかし見上げると、そこに光があった。

オレンジ色に輝く、眩いあたたかな光が。

その光は私を優しく包み、微笑み、癒してくれた。

痛みも空腹感も飢餓感もなく、

心は満たされて

忘れていた・・笑う・・と云う感情も甦った。

 

乾ききった心に潤いを与えられ

とても今迄考えも及ばなかったような

至福の悦びが湧き上がり

オレンジ色の光と私は融合し

身も心も満ち足りた気分になった。

 

とうとう辿りついたのだ。

荒涼とした大地には、木々が生い茂り

水が大地を潤す桃源郷に変わり

そこには多くの穏やかな笑顔が、待っていた。

 

そのときになって。

初めて気がついたのだ。

自分がとうの昔に、死んでいたことに。









       

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