ヤス
「それで兄貴は、どうされるつもりなんですか?」 「どうって・・オヤジに獲ってこいって云われたんじゃけぇ。そうするしかあるまぁが。」 「でも近藤組の親分といえば兄貴の・・」 「おぅよ、叔父貴分だょ。」 「大丈夫なんですか・・」 「確かによ。 近藤の叔父貴も、ヤミ金やら外貨やらで一時は飛ぶ鳥を落とす勢いだったがな。 法律で規制されて、挙句の果てに若いボンクラ集めて年寄り相手の電話詐欺だものな。 それも苦しくなって、被災者相手の詐欺を始めたってあたりが、オヤジの逆鱗に触れたらしい。」 「神戸のときは・・」 「ぉぅ、オヤジも神戸のときは姐さんを喪っているにもかかわらず身を捨てて、 被災された方を支援してな。炊き出しもしたし夜回りもしたし、三国人共の悪事も止めさせたものよ。 そのあたりの思いがあるんだろうよ。」 「兄貴、近藤組は腕の立つのはもうひとりもいませんけぇ、 居るんは電話詐欺の柔なボンクラばかりですから。 わしがひとりで行って片付けてきますけぇ・・。」 「そうはいくかい。こんなだけに面倒をかける訳にはいかんよ。 まぁ、たいした仕事じゃないけぇ、そぅ昼前にさ・・ぃゃぁ、朝のうちによ。 サクサクっとカタァ付けようゃ。」 「わかりました、兄貴。ところで昼前って、なにかご予定でもあるんですかい?」 「トラよぉ、なーにワタクシごとよ。 ガキの学校の運動会なんだと。 女房が弁当作って応援しに行くって乗り気でな。 ガキにとっても、ほれ、親がこがいな極道じゃけぇ。 保育園も幼稚園も入れてやれんかったからのォ。はじめての運動会ってやつさ。 このひとつき程は、練習じゃぁなんじゃぁ云ぅてよ、はしゃいでおるわい。 なんでも、徒競走とかよ。パン喰い競争もあるらしいんでよ。 ウチのガキはチョロチョロしとるけぇ足だきゃぁ速いぞ、ハハハ。」 「へぇ、ほぅですかぃ、ボンもそんなに大きくなられましたかい。 姐さんもお喜びでしょう。それじゃぁ、尚のこと、この仕事、わしがひとりで・・」 「おいおい、ウチは新興の小さな組なんじゃけぇ、三人一体ぞ。なぁヤスも入れてよォ。」 は、はい・・ありがとうございます、組長。 「今回の件が終わったらよ、ヤスぅ、こんなにも盃せんとなぁ。」 え・・?あ、ありがとうございます。 「こんなにはこれから若いもんまとめてもらわにゃぁならんけんのぉ」 そ・・そんなぁ・・まだまだですよぉ。 「まぁ、人生いつまでも修行ぃぅこっちゃ、の。ほいじゃ、トラぁ、ヤスぅ、頼むぞ。」 「わかりました、兄貴」 わ、わかりました、組長。 「ほいじゃぁ、アトでな。」 お疲れさまです。 「ぉぅ、そうだ。ヤスぅ、こんなぁまだまだ駆け出しだがよォ。 こんなにも道具もたせちゃるけぇ、の。」 は、はぃ・・これが・・。 「をぅょ、これがトカレフじゃ。使いかたぁ・・」 あぁ、「極道一番街」シリーズのDVDは全部観ておりますけぇ・・ これが、安全装置ですよね。こうして・・外すんですよね。 「竹内力のヤツか。ょぉ勉強しとるなぁ。ぃゃぁ感心、感心。 まぁ、持ったところでょ、撃つことも無いとは思うがのォ。 カチコミかけるんじゃけぇ、万が一ってこともあるからな。ま、持っておけぃゃ。」 は、はぃ・・ありがとうございます。 なんかやっぱり、ズッシリきますね・・。 「ほぅょ。こりゃぁおもちゃじゃないんぞ。 獲るか獲られるか、ひとの命の重さが感じられるだろうが。 引き金引くだけで簡単に相手を殺せるんぞ、わかるな、おぅ」 はい・・気ぃつけて持たせていただきます・・。 「ぉぅ、そう気張るな。 とりあえず、仕事はわぃらでやるから逃走用の車ぁ転がしてくれぃ。 わしら裏口に出るけぇ、待機しとってくれぃゃ、のぉ。」 わかりました、若頭・・。 |