Toru Takemitsu - Nostalghia(1987)

その後、警察がやって来て僕とじいちゃんは
この村で起こったことを包み隠さず話した。
わが家の床下からとおちゃんとばあちゃん、そして札付きの不良外国人で
通っていた”金”の死骸が見つかった。
隣の森下んちからは、森下のおじさんと婆さんの死体が見つかった。
かぁちゃんにはばあちゃんの殺人容疑がかけられたが、
それ以前に恐れ慄き言葉すら発せない状態で。
精神の病で入院することとなった。

だが警察は釈然としないようだった。
それは死んだはずの龍田久子の胴体が見つからないからだ。
当然、殺人及び死体遺棄の容疑がかけられた
何処に埋めたんだ!?と何度も聞かれたが、
じいちゃんに云わせれば奥村に帰ったんだろ、と。
僕らの説明が伝わらずヤキモキした警官に怒鳴られたが、
鑑識官の耳打ちを受けると急に態度が変わった。




「あの生首、角が生えてる・・だと?!」

染めた黒髪を後ろで堆く盛り上げた”二百三高地”と呼ばれる
料亭の女将の様な髪の中に太くて鋭い角が頭蓋から突き出していた、というのだ。

「人間じゃないだと?それじゃ、殺人にはならねぇだろ!」

警官は頭を抱えた。



盆が過ぎた。
遅ればせながらに河原でとおちゃんとばあちゃんを荼毘に付した。
とおちゃんやばあちゃんの霊が茄子の牛に乗って、ゆっくりと登って行くのを願った。
立ち上る煙が、上村や奥村を飛び越え山の神さまのもとに届くのを見守った。

あれは遠い日の記憶_。
しかしあの恐怖はいまでも止めどなく滾々と湧いて出てくる、
鬼の居ると云われる鍾乳洞の湧き水の様に。
悪意に満ちた禍々しき心は。
昔も今も流れ続けている。






エンド・クレジット

この文章は完全なフィクションです。
不肖・平岩この書き物を書くにあたり実際の事件に
多大な影響を受けまた、以下の方々の作品にインスパイアされましたこと
につき感謝の意を表したいと思います。

武満徹(音楽家)
園子温(脚本家・映画監督)
永井豪(漫画家)








inserted by FC2 system