それから二学期が始まり、近所の団地じゃ相変わらず怪獣騒ぎで小学生中心に
夜間の外出を控えるように云われていたが、なんとか冬のシーズンにはラグビー同好会を
部に昇格させなきゃな、とオレらはなにかといろいろと忙しい健全な高校生活を送っていた。
太田先輩たちの合成とか特撮とかの撮影を続けていたが
ヤッさんとオレは忘れかけていた。暫くして拝島先輩が声をかけてきた。
「ライブハウスに招待するからさ。」
で、ヤッさんと連れ立っていくと、同じクラスの林が率いる
アフガンロッカーズなるヘビメタバンドのライブだった。
軽音楽部、とはいっても重金属な音を奏でるグループしかなかった。
拝島先輩と太田先輩、彦根、イクエ・・なんだ打ち上げかい?
「最後のテロップの後ろでコイツらの音楽を流すのよォ!」ということで
いつの間にか音楽を担当することになった

 

 
「タカシも来てくれたのかよ!うれしいぜ!」
スリムというよりは病的なまでにやせ細った身体の林は、
ドラムを叩いているのが不思議なほどに、痩せている。
革ジャンに鋲をうって、Tシャツの上に着ている。
顔に妙なメイクをして、未成年のくせにタバコを燻らせながら・・「タカシぃ、吸う?」
「いや、吸わない・・。」オレは断ると、拝島先輩も太田先輩も吸い出した。
まだ喫煙について、かなりウブだったオレは“不良”というよりは“大人”という
新たな世界に触れた気がした。良いものかどうかは・・ともかく。
大音響のステージでの林たちのバンドの熱い演奏を観ながら
ビールだのジンだのを飲み干すヤツらが、途轍もなく大人に思えた。
途方もなく子どもな自分を感じた。
居場所がないような気がした。
後ろを突かれて振り向くとイクエが立っていた。

 

イクエになんとなく近寄りがたくウロチョロしていたオレだったが。
イクエのほうから声をかけてきた。
「随分他人行儀じゃん。」
「え?だって怒ってるんだろ?」
「いつまでも気にしてないよ。」とサラリと笑った。
それが不思議なもので、ホッとした、というよりはガッカリした。
結局、ファースト・キスなんて単なるイベントのひとつに過ぎないんだ。
と、ひとつ「おとな」に成ったのと、ひとつ「つまらないもの」になった気がした。
「ところでさぁタカシさぁ。中学のとき、ケミのこと好きだったでしょ?」
「ケミ?」
「とぼけんなよ、アケミだよ。だからケミ。」
あぁ、初恋とも云えないような、片思いですらなかったような一時の気の迷い。
いやアケミというコは可愛い子だったけど。
高校二年生のいまになって思い出すようなことでもなかった。
「突然、なんだよ?いったい。」
「だからぁ、ケミのこと好きだったのかって聞いてんだよ!」
「だからなんだよ・・。いまさらよ!」
「怒るなよ、あ、やっぱ気があったんだ!」
「うるせぇなぁ!そんなむかしの話ぃ!」

 

イクエはボソッと言い放した。
「ケミとキスしなかったのか?って思ったの」
イクエの惚けたような表情に頭に血が昇った。
「してねーよ!」オレはツッケンドンに云った。
すると、「悪いこと聞いたな、ゴメン!」とイクエが云った。
基本的には能天気に近い明るさを持った女のくせに
意外なほどケロッと云ってのけた。

 

「それじゃお互いファーストキスだったんだ。」






       
       

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