オレたちの映画の撮影が終わっても近所の団地では怪物騒ぎで盛り上がっているようで。

だから・・オレら関係ないって云ったでしょ。な変な優越感を感じていた。

二本足で立っていた、とか、C棟とD棟の間の自転車置き場で隠れていたとか

尻尾があって二股に分かれている、とか。日に日にうわさの怪獣は大きく、

凶悪な面構えになっていくのが、子どもの話しながら面白がって聞いていた。

あぁオレらも子どものころやってたよなぁ、「口避け女」とか。


あぁいう類のものさ。と思いながら、「食欲」も「スポーツ」もあったが

「読書」も「勉学」も来ないまま秋が深まり文化祭が近づいて、

ラグビー同好会はたこ焼きやの店を出すことになった。

だが、オレとヤッさんはあんまり乗る気になれずに

文化祭の準備が進む校内をぶらぶらしていた。

そこで映画研究部に顔を出すと、太田先輩を中心に数名が相変わらず暗い部屋の中で

鬼気迫る表情でなにやら作業を進めていた。

「編集」という作業は、なにもバラバラのフィルムをくっつけることだけではない。

リズム感をもたらし、映画に息吹を注ぎ込む作業だ・・と怒鳴りながら

月刊スターログに載っていたのを真似て作った合成機で作り出した爆発シーンを

丁寧にビュワーを覗き込みながら、それこそひとコマひとコマ繋いでいた。

 

リズムを共有するために暗くした部屋でヘビメタがガンガン流されて

前屈みの姿勢がビュワーを覗き込んでいるたいへん不健康な環境で

作業は続けられていた。

拝島先輩はといえば、妹さんの病状が芳しくなく授業が終わると

すぐに帰ってしまったという。

やっさんは中学のときに拝島先輩の妹さんを見たことがあるらしい。

「そんなに悪いんですか?」いつもお気楽なやっさんが珍しくシリアスな声で言うと

太田先輩は黙ってうなずいたらしい。

 

そのころには太田先輩とは音楽の趣味が似ていたこともあって

カセットを交換して聞きあう仲だったのだがふたりとも聴くものといえば

高中正義とかCasiopeaだのスクエアだのの「コ洒落た」フュージョンで。

作業中も松岡直也の曲なんか流してリゾート気分でいたのに。

林のバンドはへビィメタルで。それが嫌いか・・といわれると好きだったりもする。

 

そこに彦根が作ったCGが付け加わる。

学校の廊下で撮られるシーンのCG俯瞰図はオレがマイコンで作る!と豪語した。

「コンピュータに出来ないことはない!」といいはり、完成したものの

結局マイコンのブラウン管の前に据えた8mmカメラで撮影するしかない。

そのアガリがとてもではないが鮮明とは云いづらいものだったとしても。

太田先輩は彦根の作ったCGを褒め称えた。

少なくともオレ達の前では純正コンピュータグラフィック映画の第一号は

「トロン」ではなく「未来社会」ではなくオレ達の映画だ。

 

すると一年坊が「太田先輩さん、見てくださいよォ、へんなもんが写ってるんですよォ!」

「どれ?」太田先輩がビュワーを覗き込むと、顔をしかめた。

一年坊が震えた声で「なんですかね?なんかやばいもんですかね?」

「心霊写真とか?」

「マジ?」

オレとヤッさんが顔を近づけてビュワーを覗き込むと・・

近くの団地を見上げて撮った絵に爆竹の破裂した絵を合成した画面なんだが・・。

警察沙汰になったあの日に撮られたヤツだが・・。

空に不思議な光るものが見える。

飛行機ではなく。

鳥ではなく。

変な風な動きをして団地のあちら側に消えてしまう。

「なんだろうな、反射かな?」

いやそんなもんじゃない。

 

拝島先輩が聞きつけて、でも「なんかやばいもの?」

でも撮り直している時間も金もない。

切ってしまうには・・無いと仕方ないシーンだし。

「UFO?」

拡大してみると確かに不思議なものが写っている。

しかもなにかが動いているようにも見える。

不気味すぎる。

 

そんなとき太田先輩が粋なことを云った。

「映画の神様さ、きっと。」







       
       

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