Wikipedia によれば


8ミリ映画(8ミリえいが、通称8ミリ)とは、8mm幅のフィルムを利用した映画。
映写にあたって免許資格が不要であり、取り扱いが簡便なことから、主に家庭用に1932年から発売され
さらには教育用や産業用などでも広く使われた。

シングル8とは、富士フイルムが開発し、1965年に発表した規格。
パーフォレーションや画像の寸法などはスーパー8とほぼ同じだが、こちらはPETベースを採用しており
従来のアセテートより薄く、強度が強くなっている。
スーパー8とは厚みが違うためシングル8とスーパー8をつなぐと映写時にピントがずれる。
マガジン(カセット)形式であり、VHSテープの様に2軸で走行するため自由に巻き戻しなどができる。




 




2000年(昭和75年)
「死刑制度廃止の決まった日本は他国からの犯罪組織の流入が続き、
国際犯罪都市TOKYOの都市部の犯罪発生率は最悪となり、
治安維持のために環状線である山手線内を封鎖し刑務所とした。
裁判で無期刑の者は強制的に山手線内に入れられた。」

アニメーションにより東京の地図に山手線が示される。




  2025年(昭和100年)
 「羽田空港に着陸予定の政府専用機が着陸態勢に入った瞬間、
 何者かの手により地対空ミサイルで迎撃される。
 ジェット機は爆発炎上するが首相は辛くも脱出カプセルで脱出するが、
 山手線内のTokyoPRIZONの中に落下。」

 青山付近に脱出カプセルの落下地点が示される。





 「首相救出のため、警察の特殊部隊が山手線内に乗り込むが
 首相は脱出カプセルから転落死し、極秘機密事項の記されたマイクロフィルムを 
 体内に飲み込んだと思われる首相の娘が、犯罪組織に拉致された!」



  「極秘機密事項は、米ソ中の三国が付け狙うもので各国の諜報機関が
 Tokyoに押し寄せ24時間以内に内容が確認されなければ核による攻撃を
 迫ってきた。新型の非核兵器の詳細の封入されたマイクロフィルム奪還のため 
 選ばれたのは、独眼竜の国際的犯罪者スネイク・ケイン!」





 「もうちっと早く動けねえのか!最後はバク転でよ!」
 拝島監督はオレを怒鳴りつけた。
 左目に眼帯をしているオレはどうも遠近感が掴めない。
 敵の回し蹴りを交わし、パンチを払い除けて、バク転。
 何度か繰り返すうちに、注意力が散漫になり、敵役の動きが掴めずに
 回し蹴りを腹で受けてしまい、オレは気絶してしまった。


 




  オレは、英語が苦手だったが田舎の県立高校に入ることができた。
 だが合格した高校にラグビー部というものがなくて、仕方なしに立ち上げようと集ま ったのが、ラグビー同好会で。兎に角、正規の部活として登録するための実績づくり とやらに奔走した。練習場所もないのに、練習実績を作らなければならず、近隣の高 校に試合を申し込んで試合の実績
 を作らねばならなかった。

  それだけじゃない。

  他の部活動とも交流を深め品行方正さという項目も求められ、不良だらけの我々
 ラグビー同好会は苦悩した。そこで顧問の教師が提案したのが他の部活への「応援」
 だった。体躯とある程度の運動神経に恵まれた不良たちは、メンバーが足りないとか
 補強の必要な他の部に「助っ人」として試合にも参加した。卓球、バレーボール、バ
 スケットなどなど。夏の野球部の試合には当然「応援団」として参加することとなっ た。そうなると意外と「助っ人」だの「応援」の話は多いもので、返って忙しくなっ
 てしまったりもした。そうこうしているうちに二年生になった。

  次に舞い込んできたのが映画研究部の手伝いというものだった。
 オレと相棒のヤッさんは映画研究部の手伝いをすることとなった。
 ヤッさんとはラグビー仲間だったが、一緒に映画をよく見に行く仲でもあった。
 この話を聞いたとき「やるとおもったぜ!」とオレに笑いかけ、やる気をみせた。 

  当時の映画研究部というのは、8mmカメラで映画を作っていた。
 俗に8mmと云うのは家庭用映画フィルムで、
 現像後はリールに巻かれて映写機にかけられる。
 コダックのSuper 8に対抗した富士フィルムの開発したSingle 8という
 タイプのシステムを使っていた。
 どちらがどうではなく、富士フィルムの方が「安いから」使っていたそうだ。

  手伝いの要請を受け、映画というものの響きに憧れて、
 しかし、いったい何をすればいいのかもわからずに映画研究部の部室に行った。
 そこで待っていたのが拝島先輩。
 拝島先輩というのは、見た目も相当きついが“怖いひと“で通っていた。
 ダブる前は空手部で、先輩後輩などなど全てをやっつけた、とか
 “場外乱闘の帝王“なる異名をもっている、とか
 表向き「病欠」でダブったことにはなっているが、相当な“ワル”という噂も
 あった。だが実際に会えば、別に眼はギラギラしているが穏やかな優男で。
 いや“ダブリ”とはいえ、“先輩”でもあるわけで。

  ところが今年になって学校に復帰し、あんまり人気のない映画研究部に
 「荷物置き場」として出入りし始めていたことは知ってたが。
 「ありゃぁよぉ、アニメ娘のエミコに惚れたからだよォ」と囁かれていた。
 エミコとは一年のとき、同じクラスだったから知っている。
 親父が小さいながら会社をやっていて、だから「お嬢様」なんだが
 とにかく「宇宙戦艦ヤマト」がどうの、「メーテル」がどうの、と。
 頭の中がアニメーションのセルで出来ているような女で、実際に映画研究部で
 アニメーションを作っていたはずだった。

  へぇ、随分と変わった取り合わせだね。と思いながら。
 そこにはオレたちを呼び寄せた拝島先輩がいて。
 フジカシングル-8ZC1000なる高級カメラを駆使するカメラマン太田先輩がいて。
 他にもいろいろな係の“スタッフ”といわれる部員がいた。
 3年の拝島先輩はいきなり押しかけたオレらに少々きつく言いはなった。

  「おまえら、ちゃんと手伝ってくれるんだろうな!」

  映画に憧れていたオレは勿論!と声を張り上げて見せた。
 「オレら、映画、好きですから。」
 ほぅ・・。という声が部室に広がった。
 拝島先輩は「わかったよ。ところでどんな映画好きなんだよ?」と言ったので。
 ボンクラなオレは「スピルバーグの映画」と答えるとチラホラ笑われる始末で。
 「あぁ、あぁゆうのはな、好きな奴は多いけど子供だよな」だの。
 「いるいる、こういうやつ」だの。
 「酷かったよなぁ1941」だの。
 小声で罵られて。

  拝島先輩はたしなめるように。
 「んじゃ、ジョーズ観たろ。どこのカットが好き?」 


  オレとやっさん。
 顔を見合わせて。頷いて。言った。 

 「ブロディが砂浜でアップになるカット !」
 
  すると拝島先輩の目が変わった。
 「わかってるじゃないか、キミら。」

  海水浴場で混み合う客が交差する中で、サメを見張っているブロディ署長。
 人が通り過ぎるたびにアップしていく編集の巧みさ。
 焦らされながらサスペンスを盛り上げてゆき・・「サメだ!」と云われて
 驚愕する背景と人間が真逆な動きをするようなズームアップ!

  拝島さん、なんか突然、熱を帯びて捲し立ててきた。
 「あれはなヒッチコックが「めまい」の中で既に使っているテクニックなんだけど
 高所恐怖症を表現するのに使っていたんだよ。ズームダウンしながら同じスピードで
 クローズアップして撮るんだ。あれは8mm映画でもできるんだ。
 カメラマンの太田君が実験しながら撮ったんだ。全く同じ効果が出ていて・・」
 それから延々、カメラとズームとスピルバーグの話で説明され、徐々に盛り上がり
 不思議なもので映画研究部に無事に溶け込むことができた。

 「俺、今年3年生で引退だからさ。凄いヤツ作りたいんだよな。」

  拝島先輩、そんなことをいう。
 「いいっすね、作りましょうよ未知との遭遇!」やっさんが調子づくと。
 「無理に決まってんだろ、こっちはフィルム代と現像代も限られているんだぜ!」
 「レイダースみたいにアクション映画やりましょうよ。」
 すると拝島先輩、ニヤリと笑った。
 「そのためにおまえらを呼んだ。」
 「え?オレ・・インディアナ・ジョーンズっすか?!」
 オレはすっかりその気になったが・・。
 拝島先輩は、太田先輩を見てニヤニヤ笑う。



 「スピルバーグの真似なんてしたって笑われるだけだろ。」 



  太田先輩はうそぶく。
 「そんなもんですかね?」
 「金がかけられないんだけどそこはアイデアで勝負できるような・・」
 「なんか聞いたことあるようなフレーズですね、でも凄そうですね」
 太田先輩はもごもごモノを云う人だがこのときはハッキリ云った。
 「あぁ凄いのを・・作るんだぜ」
 拝島先輩、とっておきの台本とやらをかき集めて。
 400字詰め原稿用紙の束と、絵コンテといわれる漫画をオレらの前に置いた。

 「スピルバーグは・・いつかやる。だがなオレたちがやるのはカーペンターだ。」

  オレとヤッさん、顔を見合わせた。互いにニタァと笑い出して。
 「マジっすか?」
 「マジだよ。」
 不敵に笑う文化系の匂いをプンプンさせる太田先輩。
 そして強面なまま、黙ったまま、妙に純粋な顔を見せる拝島先輩。

  カーペンターといえば。カーペンターズではない。
 低予算ホラー映画「ハロウィン」で注目を集めて。
 ひとつの金字塔「ニューヨーク1997」を世に放った直後の当時新進気鋭の
 映画監督ジョン・カーペンターである。
 その映画の凄さは、「安い」「早い」「美味い」と当時の吉野家のCMのようなもので 貧乏でもアイデアひとつで映画はかくも面白くなるという辺りを刺激する人で。
 自慢の自作の音楽がなんともやすっぽいシンセ音楽で。それも魅力のひとつで。
 世の映画少年たちに「ひょっとしたらオレらでも手が届くかも」という甘い幻想を与 えてしまった張本人である。

  斜めに原稿用紙の束を読みながら・・オレは思った。
 ヤッさんも怪訝な顔してオレの顔を覗き込み頷いた。

  これって、「ニューヨーク1997」のまんまじゃん、だろ?







       
       

inserted by FC2 system