♯シーン30 大統領府“外”
建物の間を車が走り抜ける!
襲い掛かる囚人達!
残り時間はあと10分!
爆発する大統領府! 隔離壁を登るスネイクと亜美!
イクエは陸上部の、しかも短距離走の選手だ。
しかもインターハイの経験もある。
「なに?ここ走ればいいの?任せなよ!」と余裕をかましていた。
「スタート!」の掛け声で一緒に走るんだが・・。
「てめぇ、主役が追い抜かれてどうすんだよ!」
拝島監督に怒鳴られても。
「それじゃぁ、もちぃっと女らしいのを連れてこいよ!」と毒づく。
その後を、空手部だのバスケ部だの軽音部のパンクだの「囚人達」が集団で
追いかけてくる。
大塚先生提供の車に乗り込んだところで「カット!」
今度は先生の運転する車が走るシーンを撮影し、その日の午前中は終了。
なんとも大人数で撮影を行なったもので。
イクエはそいつらに冷やかされ励まされながらも堂々と笑っていられる女だった。
満身創痍の主演俳優のオレとしては散々な目に遭いつつも優秀な“スタッフ“
クリハラさんのお陰で予定通りに撮影が進んでいるようだった。
まぁ女優もアレだけど見つかったことで拝島監督もバンバン撮りまくっていった。
だが、思いもかけないことが起こった。
♯シーン34 監視センター壁
残り時間がない。
最後の隔離壁を登るふたりに、襲い掛かる“サイボーグ”のやっさん!
近くの団地の脇の塀を使って撮影するのだが、近所の子供がやっさんの
姿を見て泣き出し、警察沙汰になってしまった。
パトカーがやってきて、事情を説明するのに何時間もかかって。
“血まみれ”のオレは特に念入りに説明させられた。
「ここんとこさぁ、ワニ飼っているウチからワニが逃げ出したりしてるしさぁ。
なんか怪獣が団地をうろついているって通報が多いんだけどさ。
おまえらだろ?こんなかっこうして、怪獣映画作ってんだろ?」
あん?
「でっかい怪獣のぬいぐるみ着てうろついてさ、近所のこどもたちが
怖がっているって、おまえらだろ?」
ええっ?
なにかへんな言いがかりつけられて。
隣の高校の映研か近くの大学の映画サークルかなんかじゃないですか?
なんて云ったところでおまわりさん聞いてくれるわけがない。
かえって拝島監督、バイトのことまで聞かれて、オレとしては初めて
眼がマジになって“怖い”拝島監督の表情を見た。
あんたいったいなんのバイトしてるの!?とか眼帯しながら立っている
オレとしても突っ込みたくなるような場面もあったが、拝島監督は
オレらより“おとな”だった。
太田先輩はおまわりさんと揉めてる間も団地の風景を撮っていた。
拝島監督苦虫を潰した顔で決定した。
あえなくシーンごとカット。
怪獣扱いされて剥れるやっさんは、怒って帰ってしまった。
♯シーン34 監視センター階段 団地での撮影が出来なくなり、かといって無いと困るシーンでもあって 拝島先輩の住んでいるマンションの非常階段を使って撮影することとなる。 |
調子に乗っているのかただ単にホントに足が速いだけなのか
とにかくイクエの足が速ぎるので、オレは繰り返される昇降に飽き飽きし始めた。
というか汗だくになって、疲れていた。
挙句の果てには「イクエ、おまえ、ちったぁ手加減しろよ!」
するとイクエは笑って云った。
「残念でした、手なんか使ってません!足しか使ってねーだろ!階段登るのによ!」
「じゃぁよぉッ、足加減しろよ!」
「ダラダラ登ってたら緊迫感ないだろ?そうですよね?拝島先輩!」
すると一気に分が悪くなる主演男優。
あぁ、そうだな、おまえのいうとおりだ。
首に巻かれた爆弾が爆発するまで残り時間5分しかないのにダラダラ登っている筈はない。
あぁ、おまえは正しいよ。
オレは必死に階段を登り詰めたが・・。
イクエは「楽勝ぅ~ッ」とはしゃいでいた。
♯シーン35 監視センター屋上 亜美を奪還したスネイクが刑務所長の前に倒れこむ。 残り時間は1分を切る。 スネイク「早く、早く爆弾を外せ!」 刑務所長「娘をこちらに渡せ!」 スネイク「亜美、行け!」 亜美、警官の方に行く。 スネイク「早く外せ!」 警官が爆弾付きの首輪を外す。 スイッチを解除するとランプが消え、爆弾は無力化する。 スネイク、脱力して倒れこむ。 時計は3秒前をさす。 刑務所長が警官に指示する。 刑務所長「娘のはらわた切り裂いてでもマイクロフィルムを取り出せ!」 スネイク、警官の腰の銃を取り上げると発砲。 警官達が倒れてゆき、刑務所長も倒れる。 スネイク、亜美を助け出し逃走。 刑務所長「逃げられんぞ!」 |
「なぁ、おまえさぁ、二学期こそは頑張れよ。 オマエ他の教科はそこそこいいんだからさぁ。 このままいけばそこそこの大学だって眼じゃないのに。 なんで古典だけダメなの?古典なめてんの?」 なぜ、夏休みの。なぜ、ボンクラ映画撮っているときに。 進路指導されなきゃいかんの? しかも最大最悪の悪役の刑務所長に起用された古典の教師に。 詰め寄られて。 そりゃぁ大塚先生はさ。顧問だから一番声もかけやすかったんだろうけどさ。 しかしキャスティングの妙というのかな、やせこけて腹黒そうな感じの面持ちなんか 岸田森そっくりだよ。前から思ってたけどさ。あんたホントは吸血鬼だろ? 「古典なめてませんよ。分からないだけですよ。 そんな今では理解されないような言葉で語られたって通じるもんも通じませんよ!」 「確かに高校の勉強の全部が全部、人生に役立つとは云わんよ。 だがな人生にひと味もふた味も加えることは、最近オレ自身、身をもって感じている。 そもそもおまえら高校生にとっては。いいか?格好つけた気かもしれんがな。 目前に控えた受験に・・必要なものだろ。」 「受験のためだけに高校来てるわけじゃないですし・・。」 「せいぜい粋がってろ。修学旅行までは、いいさ。楽しむがいい。 だが、来年はこんな遊びしてられねえぞ。」 もうなにもいえない。 このプレッシャーがカメラに捉えられたのだろうか。 爆弾付きの首輪を巻かれるシーンと、外されるシーンを撮るのだが。 午前中で終わったが、先生と面と向かっている間、異常に時間が長く感じた。 それも拝島監督の演出意図だというのか? をひをひ、そんなこと、あるわけないだろ。 え、まさか・・。 |