我が校始まって以来のSFアクション映画が文化祭で上映された。

視聴覚教室は満員で、映写機はカタカタと廻り始めた。

そして拝島先輩作曲のポコポコなるシンセ音楽に乗ってタイトル。

「SNAKE2025」と出て、エミコたちの作ったアニメーションで話の掴みが語られる。

あまりに想定を覆した斬新なイメージの数々に場内失笑の後、爆笑。

太田先輩の撮った特撮シーンと彦根の作ったコンピューターグラフィックがあって。

音が割れて聞きづらいまでの林たちのヘビメタが劇中に流れて

そしてクライマックスの殺人ロボットとの撃ちあいシーンが終わって。

多数の囚人たちが登場するシーンでは「ぉぅ、オレが映ってるだろぅがっ!」

と威勢のいい声があちこちであがる。

謎の光が浮遊する爆発シーンでは「すげぇっ!」と声がもれる。

そして問題のキスシーン。

え・・?

こんなもんかい・・ぐるっとカメラが回り込んで・・。
これじゃキスしたのかしてないのか、わからないじゃないか!

変に興奮しているオレ自身が居て。

そうではなく、抱き合って顔を近づけた点だけで、悲鳴すら聞こえる狂喜する客席があって。

オレたちの知らない間に録られた大手芸能プロダクション所属の一年生の
マサエちゃんが歌う誰かが作った主題歌に乗せてオレたちの名前が出て映画は終わった。

あぁ最後のクレジットねぇ・・。「出して欲しかったら自分で書きな!」と云われて
書かされたヤツな。だからオレの名前だけ他より大きいんだ。

すると拍手が出て。

いやぁ、やったねぇ・・。

拝島監督を見ると、あぁカーペンターになっていた。

太田先輩はハリーハウゼンになっていた。

オレ?もちろんカート・ラッセル・・だよな。と、ほくそ笑んでいた。


映画が終わると照明がつけられ一斉にオレとイクエが冷やかされた。

仕方なく拝島先輩以下、突然舞台挨拶となった。

オレは照れくささで顔が真っ赤になっていた。
だが、イクエは堂々としたもので。女優然としていた。

「なに?キス?したわよ。そうゆう役だもの。
そしたらね、タカシのやつ、舌を入れてきやがって・・」

オレはなにか焦ってその言葉を打ち消すのに必死になった。

「舌なんか入れてねーよ!」

すると取り囲んだ女子たちに一斉に「赤くなった!マジで舌入れたんだーッ、変態!」

と罵られる始末。

「だからぁ、そんなことしてませんって。」

否定すれば否定するほど、オレは女子の残酷な罠に深くはまっていった。 

イクエは不敵に笑いながら

「そういえば、アンタ、キスする前にカレーパン食べたろ!」

と詰問口調でオレを攻め立てた。

「え?」

「私のファーストキスを奪っておきながら、甘酸っぱい味もヘッタクレもなかったぜ!」

イクエは不敵な笑顔を浮かべた。痴話喧嘩のようなやりとりに視聴覚教室は盛り上がった。

だから仕方ないじゃないか。こうなりゃぁ。文化祭だ。祭りだ。


オレは声を荒げた。

「悪かったな!」

そういいながらイクエの方に向かい、いきなりキスをした。
多感な高校生たちのまえで公開キスを見せびらかす、というのはこちらもきつい。

しかしどうせお祭り騒ぎだ。

オレもイクエも生まれながらにエンターティナーであるところは共通点だったようで

立て続けにその場で3回ほどキスして見せた。

「おまえ、段々うまくなってきたじゃん」

「おまえこそ、また舌入れてきてんじゃねーよ。」

大爆笑と悲鳴の中、上映会が終わった。

文化祭の最後の日にラグビー同好会は部に昇格し、
冬の大会にいきなり出ることが出来た。

やがてビデオの時代になり、DVDの時代になっても

“手を伸ばせばオレらでも手が届くかもしれない。”

そんな微妙な線の映画を作り続けて。

しかしどんなに手を伸ばしてみてもオレたちの「映画の神様」

ジョン・カーペンターには遠く及ばないのであった。

 

 

その後、関係者はそれぞれの道を進んだが、拝島先輩の妹さんが
この世紀の大傑作映画を見ることができたか、は、わからずじまいだ。


あぁ「映画の神様」といえば。大盛況の上映会にもアンチなヤツはいたもので。
一番前の席で突っ伏して顔を横にしてボーっと観ていた映研の顧問の大塚先生だが
上映が終わった後でボソッと言った。

「すげえな、あのUFOにのってるの、ほれ、イーマ竜だろ。
まるで生きてるみたいに写っていたじゃないか、本物かと思ったぜ!

なぁ、あれどうやって合成したんだい?」







       
       

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