J.S.Bach:Matthäus Passion BWV244 Nr47 Erbarme dich,mein Gott |
少々時間があったので立ち飲み屋でビールを二杯ほど飲んで時間をつぶしてから 指定された場所に向かうといまどき流行らなさそうなパンクなファッションに身を包んだ 若者たちの集団が招いた。外灯もない暗い駐車場には高級外車が並んでいた。 チケットを見せると暗い鉄工所の奥へと誘った。 地下に続く鉄の階段を下りてゆくと分厚い鉄のドアがありノックすると奥からあけてくれた。 大爆音で流れるヘビーメタルなアップテンポの曲が耳をつんざく。 色とりどりのスポットライトが、ミラーボールが無数の光を投げかけてきた。 狭い地下室にたくさんの男たち、そして女たち。 狂乱ともいえる熱狂が渦巻いているここで。 いったいなにが始まるというのか。 どこともなく”U-BOX!””U-BOX!””U-BOX!”と歓声が湧き上がり 照明に照らされたのは四角いリングだった。 しかしロープには有刺鉄線がまかれている。 U-BOX・・Underground Boxingか_! これは・・アングラボクシングなのか! 立ち見の観客たちは札束を手に賭けのブースに殺到している。 いつのまにかオレの隣に志水がいた。 「兄さん、ここは初めてかい?」 オレが頷くと志水は涎を垂らしながら頷いた。 「あんたガタイがいいね、え?どうだい鍛えてみちゃぁよぉ」 「いやぁオレなんてもう40過ぎてますしね、見てるのがいいところですよ。」 「ハハハ、ところがよ、還暦過ぎた爺さんが今でもここのチャンプなんだぜ。」 「そんな爺さんが・・やってんですかぃ?!」 その男が田端和俊であることは容易にうかがえた。 しかしまさか還暦過ぎの男が志水たちに接触し、こんな場末のアングラボクシングを していたとは思わなかった。 「そぅよ、この俺が鍛えてやったんだぃ。今夜は休みだがよ。 この二年ほど勝ち続けてやがる。だがよ、勝ち方がえげつなくてよ。ハハハ。 ここじゃ大人気だぜ。 あぁいうのがアングラボクシングのチャンプっていうんだろうな。」 「勝ち方がえげつないってぇと・・」 「ハハハ、ここはアングラだぜ。階級も関係ない。ルールなんてありゃしねぇ。 グラブも着けようと着けまいと知ったことじゃねぇ。 メリケンサックつかおうが、ドーピング行なおうがここじゃお構いなしだぃ。 ここじゃ学歴も職歴も肩書も名声も関係ない。金持ちも貧乏も関係ない。 身ひとつで闘争本能だけが試される場所だぃ。 若くてパワーがあってスピードがあっても怯んだ瞬間、負けだぃ。 男と男が人生の行き着いた先のこのリングで最後に花道を飾れるかの 一世一代の賭けをする場所なんだ、どうだい、美しいとは思わないか? 勝てば人生の輝きを見出すことができるかもしれんし・・な。 負けたら・・ハハハ・・そりゃぁ水路のヘドロに沈むんだぃ。」 そういうと志水は気が狂ったような奇声を上げ、気分が高揚したのか リングサイドの方に向かって歩いて行った。 スポットライトに照らし出された派手なスーツを着た高田祐吉が高らかに声を張り上げた。 リングアナウンサーを気取って選手を呼び出した。 歓声とデスメタルで耳が麻痺した。 狭い会場に歓声が響き渡る。耳をつんざくような大音量のデスメタルが鳴る。 両コーナーに傷だらけの筋肉が弾けそうなほどの屈強な体のファイターが立つ。 両社とも日本人のボクサーの体つきじゃない。スーパーヘビー級のようなガタイ・・。 プロレスラーかボディビルダーのような体つきだ。 「この試合は両者協議の上、グラブなしの素手の試合となります。」 賭け屋のブースはパトライトが周りサイレンを鳴らして締め切りを告げた。 一瞬、場内が静まるとゴングが鳴った。 |